社会保険料の仕組みとは?滞納したらどうなる?社会保険の種類や料率、滞納時の対応について解説

社会保険料の仕組みとは?滞納したらどうなる?社会保険の種類や料率、滞納時の対応について解説

 

昨年以降、コロナ禍における業績悪化や、納付猶予期間の終了などの影響から、社会保険料の納付に関してのご相談が寄せられるケースが増えています。

社会保険料とはそもそもどういった考えのもとに運用され、社会や我々国民にとってどんなメリットがあるのか。各種社会保険の種類や役割を解説するとともに、支払えない場合の措置や、滞納してしまった後の対処法など、金融機関としての目線も交えながら解説していきます。

  社会保険とは  

社会保険とは、国民の安定的な生活を守るための社会保障制度の一つとして役割を果たしています。

社会保障制度とは、病気・事故・出産・失業・介護等、様々な理由で国民の生活の安定が損なわれた場合に、国が一定水準の保障を行うための制度です。社会保障制度は今回取り上げる「社会保険」を含め、「社会福祉」、「公的扶助」、「保健医療」の4本柱から成り立っています。

 

社会保険は、私たちが社会生活を営む上で発生しうるリスクに備えて、国などの公的団体が保険者として運営する公的な保険制度です。

社会を形成する私たち国民がそれぞれの収入に応じた負担を出し合い、困ったことが起こった時に必要な人が保障を受ける、お互いが支え合うという相互扶助の考えに基づき運営されています。

先述の通り、国や地方公共団体が保険者、会社員や公務員が被保険者となります。

※国民皆保険、国民皆年金の考えに基づき、日本国民は何かしらの保険・年金に加入しますが、立場によって社会保険(健康保険)か国民健康保険、厚生年金か国民年金かに分かれます。今回は社会保険を形成する健康保険、厚生年金保険について説明します。

  社会保険の種類  

まずは社会保険の種類について説明します。

社会保険は下記の5つの保険から形成されています。

 ・健康保険 狭義の社会保険 広義の社会保険 
 ・国民年金保険
 ・介護保険
 ・雇用保険 労働保険
 ・労災保険

これら5つの保険は、まとめて「広義の社会保険」と呼ばれます。

また、5つの保険の中で、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つを「狭義の社会保険」、雇用保険と労災保険を「労働保険」と呼び、通常「社会保険」という呼び方をする場合、狭義の社会保険を指しているケースが多いと言われています。

  社会保険の加入義務  

社会保険は事業主とその従業員が保険料を支払うことにより運営されています。

事業主側と従業員側で加入条件は異なりますが、まず事業主側の加入条件について説明します。

 

 事業者側の加入条件 

社会保険は、本社・支店などの事業所単位で適用となります。社会保険が適用される事業所を「適用事業所」と言い、法律で加入が義務付けられる「強制適用事業所」と任意で加入するか否かを決められる「任意適用事業所」に分かれます。

◆強制適用事業所

・常時1名以上の従事者がいる国、地方公共団体、法人の事業所

・常時5名以上の従業員を雇用している個人事業主(農林水産業やサービス業などを除く)

強制適用事業所は、事業主や従業員の意思に関わらず社会保険の加入義務があります。

 

◆任意適用事業所

・雇用人数が4名以下の個人事業主

・雇用人数に関わらず、強制適用業種以外の個人事業主

個人事業主の方で、農林水産業、飲食接客業、サービス業等は、雇用する人数に関わらず任意適用となります。

また、任意適用の業種で合っても、従業員の半数以上が適用事業所になることに同意し、厚生労働大臣の認可を受けた場合には適用事業所となります。

適用事業所となった場合には、そこで働く人は社会保険に加入することとなります。

 

 従業員側の加入条件 

適用事業所に認定された事業所は従業員を社会保険に加入させる必要がありますが、全ての従業員が対象というわけではありません。

社会保険(ここでは健康保険と厚生年金保険を指します。)に加入義務がある従業員は、

・75歳未満の正社員

・70歳未満で週の所定労働時間及び一か月の所定労働時間が常時雇用者の4分の3以上の従業員

・以下の条件をすべて満たす短時間労働者

 ①従業員101人以上の企業等に勤務

 ②一週間の所定労働時間が20時間以上

 ③2カ月を超える雇用の見込みがある

 ④学生ではない

 ⑤月の賃金が8.8万を超える

 

以上いずれかの条件を満たす従業員は加入が義務付けられています。

 

また、2024年10月からは短時間労働者への社会保険の適用範囲が拡大され、「従業員101人以上の企業等」から「従業員51人以上の企業等」に変更となります。要件を満たしながら加入しなかった場合には罰則が科せられる可能性があるため、該当の従業員を抱えている法人の方はご注意ください。

 

企業の役員については、従業員のような「労働時間」や「賃金」といった概念がないため、加入要件が異なります。役員でも役員報酬が支払われている場合には従業員と同じような扱いとなり、役員報酬がないケース、役員報酬があっても社会保険料が課せられないほど低額であるケースを除けば社会保険の加入義務があります。

また、非常勤の取締役などは所定労働時間の要件を満たせないため、役員報酬が支払われていても加入義務はありません。

  社会保険の各種概要  

続いて、各種社会保険の概要について説明します。

 

 健康保険 

国民皆保険制度に基づき、日本国民は何かしらの公的医療保険に加入します。この公的医療保険によって病気やケガの際の医療費が1割~3割の自己負担で済む形となっています。

社会保険に加入する企業及びその従業員は社会保険における健康保険に、社会保険適用外の国民においては国民健康保険に加入する形となります。

国民健康保険と社会保険の主な違いは、下記の通りとなります。

  健康保険(社会保険) 国民健康保険
対象者 会社員や公務員、その家族 適用業種以外の個人事業主や一般個人
保険料負担 勤務先と折半(扶養家族分の保険料は納付不要) 全額自己負担(扶養家族分の保険料も納付義務あり)
保険料の計算 事業主が計算 市区町村が計算
医療費負担 1~3割 1~3割
出産手当金 あり なし
傷病手当金 あり なし
 保険者 勤務先が所属する健康保険組合 市区町村

 

 厚生年金保険 

国民皆年金制度に基づき、運用されているのが公的年金です。若い世代が年金を納め、高齢者に分配するというのが年金の基本的な構図となり、これによって労働が困難な高齢者になったとしても生涯に渡って一定の収入を得ることができる仕組みを形成しています。

公的年金制度には、20歳~60歳までの国民全員が加入する国民年金保険と、70歳未満の社会保険加入者が加入する厚生年金の二種類があります。

両者の違いについて説明します。

  厚生年金 国民年金
対象者 70歳未満の会社員、公務員 20歳~60歳までの全国民
保険料 収入により変動 一律
保険料負担 勤務先と折半 全額自己負担
最低被保険者期間 1ヵ月 10年
支給開始年齢 原則65歳(繰り上げ・繰り下げ可能) 65歳
付加年金 加入できない 加入できる
受給額 収入と加入期間により変動 加入期間に応じて一律
障害年金 障害等級1~3級で支給 障害等級1~2級の場合に支給
遺族年金 配偶者、子供、父母、孫、祖父母に支給 子供に支給

日本国の法律では20歳以上の国民は皆国民年金に加入することが義務付けられており、社会保険の対象となる会社員や公務員は国民年金に加入した上で厚生年金にも加入する形となります。当然支払う金額は増えますが、その分支給される年金額も増加します。

 

 介護保険 

40歳以上の国民に加入が義務付けられている保険で、病気で寝たきりになってしまったり、認知症になるなど介護サービスが必要となった際、当事者が負担少なくサービスが利用できるような仕組みとなっています。

・65歳以上で要介護、要支援認定を受けた場合(第1号被保険者)

・40歳~64歳の医療保険加入者で、加齢による特定疾病にかかった場合(第2号被保険者)

に、介護サービスを利用することができます。

 

第1号被保険者の保険料は、市区町村が3年ごとに条例で基準額を定め、所得の割合によって保険料を算定しています。

第2号被保険者の保険料は、その事業者が加入する保険組合(健康保険組合や協会けんぽなど)が保険料率を定めています。

 

 雇用保険 

労働者の生活の安定を目的に運用されている保険制度で、労働者が失業した際に給付を行って生活を保障したり、失業者の再就職支援のための教育を行うなどの機能を果たしています。

社会保険の適用事業所に雇用されている方は原則として雇用保険の加入対象となりますが、雇用形態によって区分が分かれ、失業した際の補償内容などが変わってきます。

 

 労災保険 

業務上または通勤中に負傷したり事故にあったりした際に保険給付を行う保険制度です。通常、病気やケガの際の社会保障は健康保険で賄いますが、業務中や通勤中の災害については労災保険が優先されます。

補償内容も労災保険の方が手厚く、療養にかかった費用の負担が無く、休職することになった場合も、健康保険の傷病手当より労災保険の休業補償の方が金額が大きくなります。

労災保険があることにより、労働者はいざという時に自己負担なく補償を受けることができ、事業者は高額になりがちな補償金額を保険から賄うことができます。

 

雇用形態や業種を問わず、賃金を支払われる人は全て労災保険の対象となります。

後述しますが、費用については全額企業側の負担となります。

  保険料の算定及び支払い義務者・納期について  

次に、保険料の計算方法と、納付について解説していきます。

≪保険料の算定基準≫

まずは保険料の算定基準について説明します。

健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料を支払う際の算定基準として扱われるのが標準報酬月額という考え方です

標準報酬月額は毎年4月~6月に支給した3か月分の報酬月額の平均額を計算し決定されます。従業員の報酬は昇級等で毎年変動する可能性がある為、毎年1回必ず標準報酬月額の改定を行います。これを定時改定と呼びます。

一方、年度の途中で給与の改定や雇用形態の変更など大きな報酬の変更が行われた際には、随時改定という手続きが必要となります。

 

標準報酬月額は、基本給、役職手当、職務手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業手当など、労働の対価として事業所から支給される現金または現物により計算されます。金銭だけではなく、定期券を現物で支給しているような場合でも標準報酬月額に含めて計算しますので、注意するようにしてください。

賞与は年3回までは標準報酬月額には含まれませんが、年4回以上賞与を支給している事業所は、臨時収入ではなく定期収入と見なされるため、賞与の年間支給額を12分割したものを標準報酬月額に加えて算出します。

 

こうして算出した標準報酬月額を、1~50までの等級(厚生年金保険料は1~32等級)に分け、具体的な保険料の金額が算出されます。

 

例として、協会けんぽの東京都の場合の標準報酬月額は下記の通りとなります。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r5/ippan/r50213tokyo.pdf

 

雇用保険料については、収入を等級で示す標準報酬月額ではなく、月額の給与がそのまま算定基準となります。従業員からすると毎月支給される金額によって保険料率が変わる形となります。標準報酬月額と異なり、賞与も対象となります。

納付については事業主と従業員が共同で支払うことになりますが、負担金額は事業主の方が大きくなります。料率は年度ごとに変更され、令和5年度時点だと労働者負担が1,000分の6、事業者負担が1,000分の9.5となっています。

https://www.mhlw.go.jp/content/001050206.pdf

 

労災保険料はこれまでの社会保険と異なり、仕事が原因で起こった事故や災害などに対して、従業員やその遺族に給付が行われるという性質を持つことから事業主が全額負担する形となります。

その事業所の全従業員に支払った前年度1年分の賃金総額に、業種ごとに所定の料率を掛けて算出されます。

(事業主や非常勤役員など、社会保険に加入できない人を除いた全従業員)

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudouhokenpoint/dl/rousaihokenritu_h30.pdf

 

≪納付期限について≫

健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料の3つ(狭義の社会保険)については、事業主と従業員が折半して支払います。これらの保険料の支払時期は、給与支払いの翌月末です。

例)1月の給与の支払いで従業員の給与から控除した保険料は、事業主負担分と合わせて2月末に納付。

毎月支払われる狭義の社会保険料と違い、雇用保険料と労災保険料(合わせて労働保険料と呼びます)は年1回の納付となります。

労働保険料は、毎年6/1~7/10までの間に、「その年度に発生すると見込まれる賃金と保険料」を概算で払い込む制度のため、実際に支給される賃金からは過不足が生まれます。発生した差額については、翌年の概算支払いの際に調整する形となります。

  社会保険を滞納してしまった場合  

相互扶助の精神のもとに成り立っている社会保険。税金等と同じように、皆同じルールに基づいて保険料の納付義務が課されます。

一方、税金であれば赤字決算の場合に法人税の納付が免除されるなどの措置がありますが、社会保険料は従業員を雇用している限り必ず納付義務が発生します。

決して軽い負担ではありませんが、当然滞納すれば厳しい措置を取られることになります。もし滞納してしまった場合にはどうなるのでしょうか。

 

滞納してしまった場合の、行政側の一般的な対応の流れを説明します。

① 督促

まず監督官庁から督促が行われます。一般的には納付月の月末までに納付が確認できない場合、新たに納付期日が設定された納付書が送られてきます。期日を過ぎても納付が行われない場合には、電話での督促、訪問での督促が行われます。

 

② 延滞金

督促状が届いたとしても、督促状に記載された期日までに納付を行えば、延滞金が発生しないことがほとんどです。ですが、期日を過ぎてしまうと延滞金の対象となります。

狭義の社会保険料の場合、延滞金は日本年金機構が定めおり、令和5年度では納付期限から3ヵ月経過までの間は年2.4%の日割り金額が、3ヵ月経過以降は年8.7%の日割り金額が延滞金として加算されます。

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/nofu/20141219-02.html

労働保険料の場合、納付期限から2カ月経過までの間は年7.3%、2ヵ月経過以降は年14.6%となります。

 

③ 財務調査

督促を受けても納付を行わなかった場合、年金事務所等の監督官庁が財務調査を行います。事業主や企業の代表に対して、現金、預金、不動産等の資産状況を確認されます。

 

④ 差し押さえ

財務調査によって差し押さえられる財産があると判断された場合、監督官庁による財産の差し押さえが行われます。

預金が差し押さえられればそのまま収納の対象となり、不動産等換価が必要なものについては、公売を経て金銭化した後に保険料として収納されます。

 

また、差し押さえが発生すると、附随して下記のようなデメリットも発生します。

・金融機関からの融資が難しくなる

預金口座差し押さえにより、会社の信用力が低下します。また、融資申込の際に必要となる納税証明書等の書類が用意できないため、融資申し込み自体が難しくなります。

・補助金や助成金等の援助を受けることが難しくなる

補助金や助成金は国等の公的機関からの援助金となり、申し込みの際の必要書類として納税証明書等が必要なものがあります。

・取引先からの信用が悪化する

売掛金が差し押さえられた場合、取引先には社会保険料の未納による差し押さえが行われたと知られてしまいます。取引先から経営状態が危ないという判断をされ、その後の取引の打ち切りなどが考えられます。

・従業員の離職

会社に対する財務調査や、その後差し押さえが行われたという事実が従業員に知られ、滞納解消の目途が立たない場合には従業員の離職の可能性も高まるでしょう。

 

こういった状況に陥ることが予測され、経営・資金繰りはより厳しくなることが予想されます。

  社会保険料が払えない場合の対処法  

≪監督の行政機関に相談≫

まずは年金事務所(健康保険、厚生年金)や労働局(労働保険、雇用保険)等の監督官庁への相談を行いましょう。納付の意思があること、その上で一括の納付が難しい事情を説明するようにしてください。申請が認められれば、納付に関して一定の猶予を受けることができます。

厚生労働省の指針では、納付猶予が認められる条件として、下記の通り記載されています。

・災害や盗難により事業所の財産が損害を受けた場合

・事業主や親族の病気または負傷

・事業の廃止、休業等

・事業について著しい損失を受ける

一定の要件を満たしたと認められれば、保険料の分割納付、差し押さえの猶予、延滞金の一部免除などが受けられるようになります。

 

≪不動産担保ローン≫

銀行や信用金庫等の金融機関から融資を受ける際には、税金や保険料に滞納がないことが求められます。一方不動産担保ローンにおいては審査における考え方が異なります。

ご融資時に融資金の中から納付を行い、ご融資実行と同時に完納いただけるという前提であればご融資を検討することが可能です。

加算される延滞金よりも低い金利になることもありますし、猶予申請(6か月~特例で1年ほど)と比べて長期で資金繰りを考えることができるため、毎月の資金繰りも安定する可能性があります。

 

不動産担保ローンを検討される際には、是非1969年創業、不動産担保ローン専業のアサックスまでご相談ください。

 

≪破産手続≫

どうしても支払いが困難だと判断された場合には、破産も選択肢となります。

法人の場合には、財産を全て処分し破産することで、税金や社会保険料の支払義務も消滅します。

ただし、消滅するのは法人の場合のみとなります。破産をすることで、その法人自体の存在が消滅したと見なされ、債権債務も附随して消滅することとなりますが、個人(事業主)の場合は破産を行ったとしても存在が消滅することはありません。

法人は破産によって税金や社会保険料の支払義務も消滅しますが、個人は消滅しない点にはご注意ください。

  まとめ  

今回は社会保険料について説明させていただきました。

社会にとって必要不可欠な制度であることは間違いありませんが、事業者にとっては相応に負担も大きくかかる制度だとご理解いただけたかと思います。

 

「コロナ禍からの回復で、税収が過去最高となった」という報道はありますが、業種によってはまだまだコロナの影響を色濃く受けていたり、人手不足で充分な活動を行うことができず、苦しんでおられる事業者の方は多くいらっしゃると思います。

追い打ちをかけるように、コロナ禍で実施された無利息・無担保の融資(いわゆるゼロゼロ融資)の返済がスタートする時期ということもあり、当社にも税金や保険料の支払のための資金調達、事業やキャッシュフローの安定化を図るための資金調達を考えられるお客様のお声が増えて参りました。

資金繰りに関しては早め早めに対策を考えておくことが重要となりますので、もし将来的に資金が不足する可能性がある場合には、監督官庁や当社を含めた金融機関と相談されることをお勧めいたします。

 

本コラムが少しでも皆様のご理解の一助となり、事業を営んでいく上での参考になれば幸いです。

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