差し押さえとは何?仕組みや原因、対象財産を解説

差し押さえとは何?仕組みや原因、対象財産を解説

 

「差し押さえ」という言葉を耳にされたことはあるかと思いますが、身近なことではないため具体的な内容についてはほとんど知られていません。TVドラマやドキュメンタリー番組などで、裁判所の執行官が突然家にやってきて、生活必需品以外の車などの動産に赤い札を貼っていくシーンをご覧になった方はいらっしゃるかと思います。差し押さえと聞くと、財産が没収されるなどの怖いイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。今回は、差し押さえ(差押えや差押とも書きます)についてご説明していきます。

 

 差し押えとは?

差し押さえとは、債務の履行を怠っている債務者に対して、債権者がその債権の回収を図るための手段です。債権者が裁判所に申立を行うと、債務者に帰属している財産や権利を処分する権利を裁判所が制限(事実上または法律上の意味では禁止とも解釈できます)します。

 

例えば、高額な給与を得ているにもかかわらず、借入先の金融機関に対してローンの返済をせずに贅沢三昧な暮らしをしている債務者がいるとします。当然、金融機関としては「贅沢をする前にローンの返済をして下さい」と求めます。その催促を無視してローンの返済を行わない場合には、債権者は裁判所に申立を行い給与の差し押さえを行います。債務者が自由に給与を使うことができなくなること自体が、差し押さえの効果となるわけです。

 

差し押さえ仕組みと手続きの流れ

通常はいきなり差し押さえを行うわけではなく、債権者はまず債務者に返済をするよう督促をします。一定期間を過ぎても返済がされない場合に、債権者側もやむを得ず差し押さえ手続きを裁判所へ申し立てることになります。

 

≪差し押さえに至る流れ≫

・月々の返済の滞納

  ↓

・債権者からの連絡、督促状の発送

  ↓

・一定の期日までに返済がなされない場合、債権者が差し押さえ手続きを行う

 

また、差し押さえは強制執行をする前段階の手続きとして債務者の財産などの処分を制限する効果がありますが、債権者は差し押さえをしただけでは債権を回収できません。差し押さえた財産に対して、強制執行をしてはじめて債権が回収できることとなります。したがって、差し押さえと強制執行は同時に手続きをされることが一般的です。

 

差し押さえと督促の違い

督促と差し押えはそもそも異なります。督促→差し押えの順に行われます。

督促は、債務者が支払いをしなかった場合に、債権者が電話や内容証明郵便による督促状などにより支払いの催促を行うことを言います。督促により一定期間以内に支払いが行われない場合、債権者は差し押えをするために裁判所に申し立てを行います。

 

  通知方法 法的効力 対応期限
督促

①電話、内容証明郵便

②支払督促(裁判所からの特別送達)

①は法的効力はない。

②は債務者から異議が出なければ、差し押さえに使用する「債務名義」になる。

①は債権者より任意の期限を設けられる。

②は2週間以内に異議申し立てが可能(その場合は訴訟へ移行)。

差し押さえ 裁判所から債務者・第三債務者(銀行等)へ送達 財産が凍結・拘束され、換価の前段階となる。 基本的に即時効力。通知が届いた時点で即時に財産を拘束する法的強制力がある。

 

差し押さえになる原因と流れ

債務者が契約で定められた支払期日を過ぎても支払わない場合(債務不履行)、債権者は電話・書面・内容証明郵便などで任意の支払いを催促(通知)し、一定期間以内に支払いが行われない場合には法的手続きに入る旨を催告します。

予告期限以内に支払われない場合、債権者は裁判所を通じた法的手続き(差し押さえ)を申し立てます。

 

差し押えに関する誤解と真実

差し押えに関して、誤った認識を持っている方がいますので、よくある誤解と真実をいくつかご紹介します。

 

誤解① 差し押さえは突然行われる

→真実・・・原則として、裁判手続(督促・判決など)を経てからでないと差し押えはできません。したがって、突然差し押えが行われるということもありません。前段階に、通知や督促があるのが通常です。

 

誤解② 給料や預貯金が全て差し押えられる

→真実・・・給与差し押えは、民事執行法により手取りの4分の1まで(または33万円を超える部分)との制限があります。預貯金口座は全額差し押えされる場合もあるが、年金、生活保護費、児童手当などは差押禁止債権のため差押えはされません。

 

誤解③ テレビや冷蔵庫など身の回りのものも持っていかれる

→真実・・・民事執行法で守られており、生活に必要な最低限の動産は差押えできない。

 

誤解④ 不動産を差し押さえられたら全て無くなる

→真実・・・不動産差し押えられて競売手続きになっても、売却代金から返済金額、諸経費を差し引いた差額は本人の財産として戻ります。

 

 差し押さえの対象になる財産は何?  

一般的に差し押さえの対象となる財産には次のようなものがあります。

・不動産:土地や建物

・動産:自動車・貴金属・機械設備など

・給与:手取り33万円までは4分の1まで、33万円を超える部分は全額

・現金、預貯金:現金は66万円を超える部分のみ、銀行口座の預金は差し押えの対象になります

・有価証券:株式や投資信託なども差し押えの対象になります

 

差し押さえの対象は基本的に債務者や連帯保証人名義の財産に限られています。債務者や連帯保証人の妻、子供、親族などは契約当事者ではないため、その財産は差し押さえられる心配はありません。

ただし、債務者や連帯保証人が差し押さえを回避する目的で財産の移転をしたときは、その限りではありません。自身の銀行口座ではなく家族や親族名義の銀行口座に入金している場合や、不動産などの財産を意図的に名義変更している場合、または実体のない法人を設立して資産形成をしたり財産の移転をしている場合には、差し押さえの対象となる可能性も十分にあります。家族や親族が自身の収入で預金をしていたり、自身の資金で不動産を購入している場合には、対象にはなりません。  

 

 差し押さえまでの流れと届く通知  

差し押えは突然行われるイメージを抱いているかもしれませんが、通常は法的手続きを行う前に、まず支払いを催促する電話や通知、催告書などの発送があり、その後、督促状や差押予告通知にて支払いをしないと差し押え手続きを行うなどの強い通知が行われます。それでも支払いをしない場合に、差し押え手続きを行うという流れになります。

 

・催告書・・・支払い期限を過ぎた場合に送られる通知。内容的には、「○月○日までに支払ってください」「支払わないと法的措置を取ります」など、最初の軽めの催促。強制力などはありません。

 

・督促状・・・ 何度か催告をしても支払いがない場合に送られる。金融機関のほか行政機関や債権回収会社、弁護士から届くことが多い。内容的には、「○日以内に支払わなければ、法的措置をとります」「差押えになる可能性があります」など、告書よりも強めの請求書。

 

・差押予告通知書・・・督促状と似ているが、より具体的に「○日以内に支払いが確認できない場合は、給与・預金・財産の差押えを行います」など、差し押え寸前の状況。支払いが無ければ実際に差押え手続きに進む可能性が高い。

 

差し押え通知書の見方

差し押さえ通知書(差押通知書)は、税金や社会保険料、借入金などの未払いがある場合に、債権者(税務署、市区町村、年金事務所、裁判所など)から送られてくる重要な法的文書です。この通知書は、給与、預金、不動産などの財産が差し押さえられることを知らせるものです。

通知書には、債権者(通知元)、差押えの理由(債権内容)、金額(差押金額)、差し押さえる財産の種類、差押通知日、法的根拠、問い合わせ先などが記載されています。

どの項目もしっかり確認が必要ですが、特に重要な確認ポイントは、差押通知日(通知書が発行された日付。この日から法的効力が発生する場合があります。)、差し押さえる財産の種類(預金、給与、不動産など、どの資産が差し押さえられるのかが明記されています。)、金額(差押金額)、解除方法(滞納している金額を全て支払うことが通常ですが、対応は債権者により異なりますので確認しましょう)。

 

 差し押さえの対象になる財産一覧

先程差し押さえの対象となる財産を簡単に紹介しましたが、もう少し具体的に説明していきます。

差し押さえの対象になる財産は、大きく分けて3つあります。

 

1、給与・預貯金などの「債権」

給与・預貯金も差し押え対象財産ですが、全てを差し押さえられてしまうと生活が出来なくなってしまうため、差し押えの範囲に制限があります。

給与で差し押えできるのは、手取り33万円までは4分の1まで、33万円を超える部分は全額となっています。預貯金は口座が差し押さえられると凍結され、出金が出来なくなります。差し押え禁止財産である年金・生活保護費なども口座に入っていると普通預金との区別がつかなくなり、差し押えの対象になってしまう可能性があります。その場合は異議を申し立てるなどの対応が必要となります。

 

2、不動産(土地・建物・マンション)

不動産は差し押さえの対象財産です。

金融機関からの借入を返済しなかったり、税金の支払いをしなかった場合に、債権者(金融機関、国・市区町村など)が裁判所に申し立てを行います。金融機関の場合は不動産競売のための差し押えになるため、返済が出来ないと競売手続きが進み、不動産を失うことになります。

税金滞納による差押えの場合も金額によっては公売手続きにかけられ不動産を失うことになります。

住宅ローンなどの借入があり、抵当権(根抵当権)の登記がされていると、競売(公売)により売却された代金は抵当権を設定している債権者が優先的に配当を受ける権利があります。したがって、不動産の差押えをしても、配当を優先的に受ける債権者がいると配当が回ってこない場合もあります。

 

3、現金・自動車・貴金属などの動産

現金(66万円を超える部分)やブランド品、貴金属、骨とう品、絵画、自動車などの動産も差し押さえの対象になります。動産の所在地を管轄する裁判所に申立をすると執行官が所在地を訪れ、差し押さえが可能な動産を選別します。冒頭に申し上げた赤い札を貼っていくシーンはこのことです。
債権者側のメリットは、申立の費用が不動産に比べると低いことです。しかし、動産の差し押えは不確定要素が多分にあります。執行官が所在地を訪れた際に、換価できる動産があるかどうか初めてわかるため、申立をしてみたものの差し押さえができる動産が全くないこともあります。仮に、高級ブランド品や貴金属などの換価できそうな動産があったとしても、そのほとんどが中古品であるため、想定よりも低い金額になってしまうことも少なくありません。したがって、どちらかというと債務者に対してプレッシャーをかける目的で申立をすることがほとんどであると言われています。  

尚、66万円以下の現金、仕事道具や生活必需品などは差し押えが禁止されています。

 

 差し押さえができない財産とは?

既に触れていますが、差し押えできる財産には制限があります。生活するうえで最低限の必需品は差し押えが禁止されています。以下に記載します。

 

<動産>

・現金…66万円以下の現金は差し押え不可(66万円超の部分のみ)

・生活必需品…衣類、寝具、家具、台所用品など、通常の生活に不可欠な動産。食料や燃料など、直近の生活に必要な物品。

・職業に必要な道具…債務者の職業を継続するのに必要な道具や機械など(農業用具、大工道具など)。

 

<債権>

・年金、生活保護費、児童手当など…公的年金(国民年金、厚生年金など)や生活保護費児童手当などは原則として差し押さえが禁止されています。

・給与…手取り33万円まではその4分の3までは差し押えが禁止されています。

 

 差し押さえられる財産がない場合はどうなる?対処法も解説  

債権者から見た場合、債務者に差し押さえられる財産が無いときは、債権者に出来ることはありません。差し押えをするためには裁判所に申し立てを行うため費用がかかりますし、財産を調べるにもコストがかかるため、回収する見込みが無ければ費用はかけられないのが一般的です。

 

債務者から見た場合、無職で財産が無く、将来的な収入の見込みがないとなると出来る手立ては限られます。債務整理や自己破産などが選択肢になってきます。いずれにしても、債権者と話し合いをすることはもちろん、弁護士などにも早めに相談することも大切です。

 

差し押え後の対応方法

差し押えを受けてしまった場合の対応について説明します。まずは差し押え通知書を良く確認し、法的に問題のない差し押えか確認しましょう。問題がある場合は執行異議の申立てが出来ます。その後、債権者と連絡を取り、今後の対応について確認します。債権者の判断によるため基本的には債務が無くなるまで解除してもらうことは難しいのが一般的ですが、財産を換価される前に出来る対応があるかを確認しましょう。

 

・分割納付交渉…一度に支払いが出来なくても、分割して返済が出来るようなら、解除をしてもらえる可能性があります。

 

・執行停止申請…強制執行(差押えや競売など)の実施を一時的に止めてもらうために裁判所に申し立てる手続きです。これは、強制執行の取り消しや見直しを求めるための準備期間や、異議申立ての間に執行を止めてほしい場合に使います。裁判所が申請を認めると、執行行為が一時的に中断されます。但し、執行停止は一時的な措置であり、必ず認められるわけではないという点には注意が必要です。

 

・債務整理…返済が困難という場合は、弁護士や司法書士などに相談して、必要ならば債務整理や自己破産など法的整理手続きをするということも選択肢になります。差し押えの解除は難しいですが、その他の支払いは一旦ストップできます。但し、債務整理や自己破産などをしてしまうと、状況が良くなっても与信上のデータに記録が残ってしまうため、融資を受けたりクレジットカードを作成したりといったことが難しくなる可能性があります。

 

 

 まとめ

差し押さえについて詳しくご説明いたしましたが、いかがでしたでしょうか。
債務者は差し押さえをされると基本的にできることがなくなります。債権者は自身の債権を保全するために差し押さえをするものですが、債務者の対応次第では話し合いに応じてくれることもあるでしょう。債務不履行となった場合には、事前に催促の電話や通知書が送られてくるため、誠実に対応すべきです。そのまま放置した場合には、事前の予告はされずに差し押さえされることは、認識しておくようにしてください。

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