小規模企業共済のメリット・デメリットは?加入する資格や流れ、解約方法まで紹介!

小規模企業共済のメリット・デメリットは?加入する資格や流れ、解約方法まで紹介!

 

小規模企業共済はその名の通り、小規模企業(個人事業主や規模の小さい会社)を対象とした共済制度です。「経営者の退職金制度」とも言われており、退職金が整備できない規模の小さい会社や、老後の備えに不安がある個人事業主が退職金代わりに共済積み立てを行うケースが多く見受けられます。ただ積み立てるだけではなく節税効果があるなど、メリットも多い制度ですが、仕組みを理解しないと最大限活用できず損をしてしまう可能性もあります。加入する前に知っておきたい小規模企業共済のメリット・デメリットを中心にご紹介していきます。

  小規模企業共済とは  

小規模企業共済は、小規模企業共済法に基づいて1965年に発足した制度で、独立行政法人中小企業基盤整備機構という公的機関が運営しています。対象は個人事業主や従業員数の少ない会社役員で、事業をやめる時や退職時にそれまで積み立てた金額に応じてまとまった金額を受け取ることができます。また、退職金制度としての活用だけでなく、掛金の税金控除や貸付制度が利用できるなど様々なメリットもあります。

 

小規模企業共済は危ない?
長期間積み立てを行う際に1番気になることは、運営する独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)の破綻リスクでしょう。せっかく長期間積み立てを行っても積み立て先が破綻してしまい将来掛金を受け取れない事態に陥ってまったら元も子もありません。
中小機構の規模や運用状況などは中小機構のホームページで情報開示しています。

中小機構 小規模事業者共済制度
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/about/status/index.html

 

2022年3月時点で小規模企業共済制度の在籍人数は150万人以上います。直近5年間の推移を見ても毎年在籍人数は増加しており、5年間で約20万人増加しています。毎年の新規加入者数も約10万人前後おり、今後も在籍者数が増えていきそうな推移に見えます。資産運用残高は約10兆円を超えており、2020年の運用利回りは5.26%、2021年度の運用利回りは1.40%と安定して推移しています。また、国を母体とする公的機関が運営していることから考えリスクは低いと言っても良いでしょう。

  小規模企業共済の改正  

2016年に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律などの一部を改正する法律が施行され、小規模企業共済法も一部改正されました。改正点の概要は下記1~9です。

 

1.共済事由見直しによる受取共済金額の増加
 次節で詳しくご説明します。


2.分割共済金の支給回数が年6回に増加
 改正前は年4回だったものが、改正後は毎年奇数月の年6回に変更になりました。

 

3.共済金を受け取れる範囲の拡大
 共済金を受け取れる遺族に、ひ孫と甥・姪が追加されました。

 

4.加入時の申込金が不要
 改正前は加入時に現金の支払いが必要でした。

 

5.増額申込時の申込金が不要
 改正前は加入時と同様、増額申込時に現金の支払い必要でした。

 

6.掛金月額の減額手続が簡素化
 金融機関等による減額理由の確認が不要になり簡素化されました。

 

7.共同経営者が独立後も共済契約が継続可能
 共同経営者がその地位を退いた場合でも、一定条件を満たせば独立後に従前契約の継続が可能になりました。

 

8.掛金滞納による契約解除の取扱が緩和
 災害などのやむを得ない事情によって滞納した場合、契約継続が可能になりました。

 

9.契約者貸付制度の緩和
 払い込んだ掛金の範囲内で申し込める契約者貸付制度の上限金額が引き上げられました。また、新たに廃業準備金貸付が創設されました。

 

共済事由見直しによる制限緩和
ここでは先程の1.「共済事由見直しによる受取共済金額の増加」についてもう少し詳しくご説明します。
小規模企業共済は、共済事由(共済金が支払われるに至った解約理由)によって貰える共済金額が異なり、A共済→B共済→準共済の順に貰える共済金が減っていきます。

 

個人事業主

A共済

 ・個人事業廃業の場合

 ・共済契約者死亡の場合

B共済  老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上の掛金払込みが必要)
準共済  個人事業を法人化し、加入資格がなくなった場合

 

法人役員

A共済  法人が解散した場合
B共済

 ・65歳以上、または病気・怪我を理由に役員を退任した場合

 ・共済契約者死亡の場合

 ・老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上の掛金払込みが必要)

準共済  65歳未満、または法人の解散、病気・怪我以外の理由による役員退任の場合

 

共同経営者

A共済  ・個人事業主の廃業に伴い、共同経営者を退任した場合
 ・病気・怪我を理由に共同経営者を退任した場合
 ・共済契約者の死亡の場合
B共済  老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上の掛金払込みが必要)
準共済  個人事業を法人化し、加入資格がなくなった場合

 

法改正によって、以下の3つの共済金が引き上げされ、共済金額が増加しました。

・個人事業主が配偶者または子に事業の全部を譲渡した場合

 ⇒ 「準共済」→「A共済」へ引き上げ


・共同経営者が個人事業主の配偶者または子への事業の全部譲渡に伴い、配偶者または 子へ事業の全部を譲渡した場合

 ⇒ 「準共済」→「A共済」へ引き上げ


・会社役員等が退任した際に、退任日が65歳以上の場合

 ⇒ 「準共済」→「B共済」へ引き上げ

 

個人事業主や経営者の高齢が進んでいることで、事業をやめた後の老後資金確保や事業承継の問題が表面化してきています。改正によって加入や共済金支払のハードルを下げ、事業承継を促進していくことが背景にあるようです。

  小規模企業共済のメリット  

次に小規模企業共済へ加入するメリットをご案内します。

 

 メリット1  掛金の最大120%が戻ってくる

掛金の納付期間や解約理由によって割合は異なりますが、最大で掛金の120%が共済金として支払われます。但し、掛金の納付期間が一定以下ですと元本割れしてしまうケースもあります。

 

 メリット2  掛金全額が控除できる

掛金は全額経費計上できるため、高い節税効果が見込めます。利益が多く出る際は掛金を増額することでより節税効果を生みます。個人事業主の場合は所得控除となります。 

 

 メリット3  解約時の税負担の軽減

解約時に共済金を受け取る際、税金を支払う必要がありますが、個人事業主の場合は退職所得扱いになるため、事業所得に比べ税負担が大幅に軽減できます。事業所得は収益から費用を差し引いた所得に対して課税されますが、退職所得は退職金から控除額を差し引き更に「2分の1」した金額が所得となります。この「2分の1」に大きな節税効果があり、事業所得から掛金で積み立てた共済金を退職金とすることに大きなメリットがあります。

 

 メリット4  掛金設定が自由

掛金は月額1,000円~70,000円までの範囲で、500円単位で設定することができます。事業内容によっては毎月の売上・利益にばらつきがあったり、季節によって売り上げが大きく異なる業種もあるかと思います。毎月無理のない掛金を自分で設定でき、売上状況を見ながら掛金を変更できるのは大きなメリットと言えるでしょう。

 

 メリット5  契約者貸付制度

積み立てている掛金の範囲で、『一般貸付』、『緊急経営安定貸付』、『傷病災害時貸付』、『福祉対応貸付』、『創業転業時・新規事業展開等貸付』、『事業承継貸付』、『廃業準備貸付』といった融資制度が活用でき、低金利で資金調達をすることができます。一般貸付制度の場合には、掛金の範囲内(掛金納付月数によっては掛金の7~9割)で10万円~2,000万円の資金を金利1.5%で借入できます。借入期間は借入金額によって異なり、最大で60ヶ月(505万円以上の貸付)となっています。

 

 メリット6  内縁者に資産を残せる

契約者の死亡による共済金請求の場合、民法の規定と異なり、婚姻関係にない内縁者でも請求が可能です。本来は遺言が必要な相手でも、小規模企業共済は遺言が必要ありません。

 

このように小規模企業共済には様々なメリットがある一方で、デメリットも存在します。以下に記載するデメリットもしっかりと押さえたうえで、小規模企業共済を検討するようにしてください。

  小規模企業共済のデメリット  

 デメリット1  12ヶ月以内は掛捨

納付期間が12ヶ月未満の場合、本来は任意解約時に受け取ることができる解約手当金を受け取ることが出来ず、掛け捨てとなります。また、共済金の支払事由が発生した場合でも、納付期間が6ヶ月未満の場合にはA共済・B共済が、納付期間が12ヶ月未満の場合には準共済が受け取りの対象外となります。長期的に掛金を支払っていく前提で加入する必要があります。

 

 デメリット2  元本割れリスク

納付期間が240ヶ月(20年)未満で任意解約をしてしまうと、元本割れをしてしまいます。任意解約時には、納付した期間に応じて支払われる解約手当金の割合が決まりますが、これが100%を超えるのが納付月数240ヶ月目以降となります。また240ヶ月以上掛金を支払っていても途中で掛金を変更したりしていると条件を満たさないケースもあるので注意が必要です。せっかく節税をしても将来受け取れる金額が元本を割ってしまったらかえって損をする可能性もあります。

 

 デメリット3  解約時課税

先程メリット2で掛金を全額控除できるとご説明しましたが、解約時(受け取り時)には退職所得もしくは雑所得として課税されます。受け取った年にまとめて課税されるため税負担が大きくなります。メリット3でご説明した通り、事業所得として課税されるよりも税負担は少なくはなりますが、将来的には課税がされること、課税を先送りにしていることをしっかり押さえましょう。

 

 デメリット4  規模によっては加入不可

小規模事業者を対象とした共済になるため、規模が大きくなると加入はできなくなってしまいます。業種によって人数制限が異なり、20人以下もしくは5人以下で制限されています。一度加入しておけば、その後事業規模が大きくなったとしても継続可能なため、早めの加入がおすすめになります。

  小規模企業共済の加入資格  

先程デメリット4でご案内した通り、加入資格に制限があります。ここでは業種別に異なる人数制限やそもそも加入資格のない業種などをご紹介します。

<加入資格・人数制限>

  • 従業員数20人以下の建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊・娯楽)、不動産業、農業等を営む会社の役員もしくは個人事業主
  • 従業員数5人以下の卸売業、小売業、サービス業(宿泊・娯楽以外)を営む会社の役員もしくは個人事業主
  • 組合員20人以下の企業組合の役員、従業員20人以下の協業組合の役員
  • 従業員20人以下の農業経営を主としている農業組合法人の役員
  • 従業員5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員

 

<加入資格無>

  • 共同経営者の要件を満たしていない配偶者等の専従者
  • 営利目的でない法人(NPO、宗教、学校、社会福祉、社団、財団)の役員
  • 不動産賃貸業を兼業している給与所得者
  • 全日制高校生
  • 実質的支配者や顧問等、役員とみなされる人であっても、法人登記簿謄本に役員登記されていない者
  • 生命保険外務員

 

小規模企業共済の加入手続き

加入手続は4つのステップで完了します。加入する人によって必要書類が異なるため、ここでは少し詳しく必要書類の準備から加入までの流れをご紹介します。

 

 STEP 1  必要書類の準備

加入者によって異なる必要書類をご説明します。

個人事業主の必要書類
確定申告書の控えが必要となります。事務所の受付印が押されていることが必要となりますので注意が必要です。電子申告した場合は、受付確認のページ(メール詳細)を添付します。また開業したてで確定申告をしていない場合は、開業届が必要になります。確定申告書と同様に税務署の受付印が必要になります。
法人役員の必要書類
3ヶ月以内に発行された法人登記簿謄本が必要です。
共同経営者の必要書類
上記で説明した個人事業主の必要書類に加え、共同経営契約書の写しと報酬支払が確認できる書類が必要になります。共同経営契約書は特に決まった書式はありません。中小機構ホームページに契約書の参考例があります。報酬支払いが確認できる書類は、社会保険の標準報酬月額通知書や決算書、賃金台帳などがあります。


 STEP 2  書類の記入

中小機構のホームページから、契約申込書と預金口座振替申出書を取得してください。記載例はホームページ上にあり、郵送での資料請求も可能です。

 

 STEP3  窓口へ提出

郵送による申込手続はできませんのでご注意ください。
金融機関(銀行・信用金庫・信用組合など)や商工会、青色申告会、一部の保険代理店などで手続きを行うことができます。

 

 STEP 4  書類受取

小規模企業共済手帳と小規模企業共済制度加入者のしおり及び約款が届きます。おおむね40日程度かかるそうです。

  まとめ  

小規模企業共済について知っておきたい情報は得られたでしょうか。短期的な加入の場合には元本割れをする可能性もありますが、「節税対策を行いながら、長期的な目線で退職金を積み立てて行く」という前提で考えれば、非常にメリットの大きな制度と言えるかと思います。加入資格を満たしている小規模事業者の方は、加入を検討されるのも良いのではないでしょうか。

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