事業資金の調達方法とは?融資の判断基準、最後に個人事業主の融資についても解説!

事業資金の調達方法とは?融資の判断基準、最後に個人事業主の融資についても解説!

 

戦後の高度経済成長期からバブル崩壊までの間「終身雇用・年功序列」の日本型雇用形態が原動力となっていましたが、30年以上たった現在では多様な価値観が定着し、独立開業や副業を検討している方も多くなりました。また、新型コロナウィルス感染症の影響や、急激な利上げによるアメリカの金融不安など、事業者の方にとっても先行き不透明な状況が続いています。このような時にこそ、事業資金について正しく理解することが大切です。今回は、事業資金の種類や調達方法、判断基準をご紹介し、最後に個人事業主に対する融資についても解説していきます。

  事業資金とは  

事業資金とは、事業を営む上で必要な資金の総称です。新規事業の立ち上げに必要となる資金や事業の継続運営のために必要となる資金など、事業を行う上で必要な様々な資金を指します。

 

具体的な例として、運送業であれば「荷物を集配するための車両の購入費」「ガソリン代」「人件費」「広告宣伝費」などが挙げられ、飲食店であれば、「店舗の賃料」「保証金」「店舗内装費」「什器や備品の購入費」「原材料の購入費」「人件費」「広告宣伝費」などが挙げられます。

 

個人の生活資金と事業資金の大きな違いは、利益を生み出すために利用するものであることです。事業者は、事業資金を有効活用することによって売上を拡大し、利益を増やしていくことを目的としています。また、資金が枯渇すると事業が停止してしまうため、事業資金は事業者にとって非常に重要なものと言えます。

  事業資金の種類  

事業資金は「設備資金」と「運転資金」の2種類に分けられます。どちらも事業に必要な資金ではありますが、一般的に設備資金は「事業を行うために必要となるものを購入するための資金」であり、運転資金は「事業を継続していくために必要な資金」となります。それぞれを具体的に解説していきましょう。

 

「設備資金」
設備資金とは、事業に必要な設備を購入したり投資したりするための資金です。
一般的には、事務所や店舗などの敷金・保証金や内装造作工事費、ホームページ制作費、車両や機械の購入費、規模によっては机・椅子・パソコン等の備品購入費などがあります。製造業であれば工場を購入するための費用や、不動産賃貸業の方の建物付属設備の改修費用、システム開発会社のソフトウェア開発費用や特許取得のためにかかった費用も設備資金となります。
設備資金の成果物は、決算書の貸借対照表で固定資産や投資その他の資産に分類されます。一度購入すると、事業を継続している間は一定期間利用するものと考えるとわかりやすいでしょう。また、一つ一つの費用が高額になりやすいことも特徴です。

 

「運転資金」
運転資金は、事業を継続していくために必要となる資金のことです。個別に名目のある設備資金以外を全て運転資金と言い、一般的には、事務所や店舗などの賃料、人件費、光熱費、原材料費、広告宣伝費などがあります。運転資金には4パターンあります。

 

・経常運転資金
現状を維持するために必要な資金を経常運転資金と呼びます。
経常運転資金は、「掛け取引」(売掛金や買掛金など、先に商品を引き渡して代金の支払いは後日となる取引)の商慣習があるために必要となるものです。売掛金は、売った商品の代金が手元に入ってきていない状態のことであり、資金回収まで数週間~数ヶ月になることが一般的です。この間も賃料、人件費、光熱費、原材料費などのランニングコストが必要になるため、経常運転資金が必要となります。

 

・減少運転資金
売上の減少が原因で事業を縮小する際に必要となる資金を減少運転資金と呼びます。
例えば飲食店で売上が減少した場合、食材などの仕入れ費用(変動費)は減りますが、人件費や賃料(固定費)は減りません。店舗を閉鎖する場合には、原状回復費や什器の廃棄代、従業員への退職金などが必要になります。既に買掛け(購入した商品の代金を後日支払うと約束した取引)で仕入れた食材の代金も支払わなければなりません。これらの支払いを補うために必要な資金が減少運転資金となります。事業が縮小している局面では、銀行の融資は難しくなることが予想されますので、早めに相談するようにしましょう。

 

・増加運転資金
事業が拡大し売上が増加すると、仕入れ代金や固定費も増えることになります。その際に必要となる資金を増加運転資金と呼びます。原材料や商品の仕入れが増えることはもちろん、従業員を増やす必要があるかもしれません。十分な運転資金を確保できていなければ、黒字倒産(利益が出ているのに現金不足で支払いできず倒産すること)するリスクが高まります。増加運転資金は銀行も対応しやすいものですが、1ヶ月~3ヶ月程度の時間はかかるため、早めに相談することが大切です。

 

・季節性運転資金
季節や特定の時期に必要となる運転資金を季節性運転資金と呼びます。お正月であればおせち料理、バレンタインであればチョコレート、クリスマスであればケーキといった、毎年特定の時期に売上が増加することによって仕入資金が必要になるものです。従業員への賞与や引越しが多くなる時期の家電製品なども該当します。季節性運転資金は必要な時期が決まっているため、どのくらいの資金が必要になるのかを事前に把握するようにしてください。

 

【ワンポイント豆知識】
必要となる運転資金の目安は、貸借対照表の資産に計上されている売上債権(売掛金)と棚卸資産の合計額から負債に計上されている仕入債務(買掛金や未払金)を差し引いた金額とすることが一般的です。業種によって売掛金の回収サイクルが違うため、運転資金として確保すべき金額は違いますが、6ヶ月分前後を手元に置いておくとよいと言われています。

  創業時に事業資金を融資で受けるべき?  

創業時にどのくらいの金額の融資を受けるべきか悩ましいところです。業種によっては、創業時に先行投資としてまとまった資金が必要となります。代表的な費用は、店舗・事務所の保証金や内装造作費用が挙げられます。
融資を受けるメリットは手元資金が厚くなることであり、デメリットは金利や返済負担が発生することです。潤沢な自己資金があり、先行投資しても運転資金として十分な自己資金が残るのであれば、融資を受ける必要はありません。一方、先行投資すると手元に運転資金が残らなかったり不足が出るようであれば、融資を受けるべきです。

 

創業時の融資に積極的な金融機関として、政府系金融機関である日本政策金融公庫が挙げられます。創業時に利用できる融資制度も豊富で、「新規開業資金」「女性、若者/シニア起業家支援資金」「新創業融資制度」などがあります。創業前の支援や創業計画書の作り方などの役立つ情報発信も行っているため、参考にしてみてください。

参考資料:日本政策金融公庫「創業支援」

  事業資金の調達方法について  

事業資金の資金調達方法は、融資や補助金・助成金、クラウドファンディング、ファクタリングなど多岐に渡りますが、最も多く使われる方法は融資となります。ここでは、融資を行っている金融機関の種類や特徴をご紹介します。

事業資金の融資を行っている金融機関
 
「日本政策金融公庫」
日本政策金融公庫は、前述の新たな事業の創出をはじめ、事業資金や災害復興資金、新型コロナウィルス感染症特別貸付など、様々な角度から中小企業・小規模事業者の支援を行っています。無担保・無保証人で融資を受けられる商品や、担保があれば金利が低くなるといった商品もあります。
ほとんどの商品で、運転資金は7年以内、設備資金は10~20年以内の返済期間となっており、返済の据え置き期間などがあることも特徴です。審査期間は2ヶ月~3ヶ月程度かかるため、急に必要になった事業資金には向いていません。早めに相談するようにしましょう。

 

「民間金融機関」
民間金融機関には、銀行(都市銀行・地方銀行・信用金庫・信用組合)とノンバンクがあります。

 

銀行の場合、プロパー融資と保証付融資の2種類に分かれます。
プロパー融資とは、金融機関が顧客に直接行う融資であり、取引実績がないと審査の難易度は高いとされています。審査の難易度が高い分、低金利で融資を受けることができます。
保証付融資とは、信用保証協会や民間保証会社の保証がついている融資であり、新規取引や与信が低い場合にはほぼ保証付融資となります。保証があれば、返済不能になった場合に保証会社から代位弁済を受けられるため、金融機関にとってはリスクを回避することができます。金利の他に保証料がかかるため、プロパー融資と比べると金利負担は高くなる傾向があります。その他に、金融機関と信用保証協会、地方自治体が協調して提供している制度融資という商品があり、保証料補助や利子補給を受けることができる仕組みもあります。
返済期間は、運転資金は5年以内、設備資金は設備の法定耐用年数までとなっており、審査期間は1~2ヶ月前後かかります。前もって相談するようにしましょう。

 

ノンバンクの場合、カードローンと不動産担保ローンの2種類の資金調達方法があります。
カードローンは、数百万円程度の金額を調達するのに向いています。審査は最短即日とスピーディであるため、急に資金が必要になった場合には重宝されるでしょう。ただし、無担保・無保証人であるため、金利はその他の融資よりも高くなることが一般的です。
不動産担保ローンは、不動産を担保にするため、まとまった金額を低金利で調達することができます。返済期間を長期にすることができるのも特徴です。審査期間は最短3日~1週間程度となっているため、スピード感のある対応をすることができます。
アサックスでは、年1.95%~6.90%の低金利で最長35年までの返済期間を設けることができ、最短3日で融資可能な不動産担保ローンを提供しています。

  事業資金融資の判断基準とは  

金融機関ごとに融資の判断基準が設けられており、民間金融機関でも銀行とノンバンクでは審査項目の中で重視するポイントが異なります。銀行の一般的な審査項目は下記の5つです。 

 

「定量評価」
銀行が最も重視する審査項目です。ノンバンクがお客様の「今後の事業計画」を重視するのに対し、銀行は「過去の実績」を重視するためです。
銀行は、提出された決算書の内容をシステムに登録してスコアリングします。スコアリングで融資対象基準を満たさなければ融資を見送られることがほとんどですが、保証協会の保証承諾が得られれば保証付融資を受けられることもあります。
決算書の各書類の中で、チェックされる項目は下記のとおりです。

 

・貸借対照表
会社の財務状況が安定しているかがわかる資料です。
現預金、売掛金、在庫、買掛金、純資産がどのような推移となっているか、どのくらいの金額かも含めてチェックされます。純資産がマイナスとなっている債務超過状態だと、よほどの理由がない限り融資は見送られることになります。

 

・損益計算書
事業を行うことによって利益を生み出しているかがわかる資料です。
売上総利益、営業利益、経常利益の項目が重要であり、貸借対照表と同様に金額の推移も見られます。各項目が継続してマイナスとなっている場合には、今の事業で利益を出すことができないと判断されるため、審査は厳しいものになります。

 

・キャッシュフロー計算書
上場会社以外は作成義務がないものの、キャッシュフローを把握すると資金不足に陥っていないかが把握できることから、資金調達する際に活用することができます。営業活動・投資活動・財務活動によるキャッシュフローの項目があり、マイナスになっている項目が理由で資金調達をする動機になっていることがほとんどです。特に営業活動によるキャッシュフローがマイナスの場合には、基本的に赤字であることを表すため、営業活動の成果が出にくい創業期や成長過程における一過性のものでない場合には、融資を受けることは難しくなるでしょう。

 

「定性評価」
経営者の人柄や能力、経営方針、市場の成長性、競合先などの項目があります。担当者と面談をした際に、会話の中でヒヤリングされた内容をベースにして評価されるものです。自身で経営している方であれば、よほどのことがない限り問題になることはありません。

 

「実態評価」
経営者個人で所有している不動産情報や事業実態を確認することに加え、固定資産や有価証券の含み損や含み益の加減算、回収不能な売掛金や不良在庫による減算などの実体修正が行われます。決算の度に反映していれば何も変わりませんが、実体修正された結果、純資産がマイナスになる債務超過になれば、融資は厳しいものとなるでしょう。

 

「資金使途と融資希望額の妥当性」
融資の目的も重要な判断材料です。何に融資金が使われるのか、希望している金額が資金使途に見合った金額なのかを明確にしなければ、審査に通過する可能性は低くなります。設備資金の場合、見積書や契約書があれば明確になるものであり、運転資金でも経常運転資金や季節性運転資金であればわかりやすいものと言えます。増加運転資金や減少運転資金の場合には、下記の事業計画書が重要なポイントとなるでしょう。

 

「事業計画と返済の見通し」
事業計画書は、融資金を使うことによってどのように事業を展開していくのかとその後の返済に対する具体的な方法を表したものです。融資希望額の理由付けを示すものでもあります。銀行は返済能力を重視するため、返済計画を具体的に示すために、返済財源の確保方法や融資を受けた後の資金繰り表も提出するようにしましょう。事業の展望が明るくても、返済能力がないと判断されると融資は見送られるため、綿密な計画を練るようにしましょう。

 

「その他」
担保や保証人を用意できる場合には、返済能力に関してプラスと判断されることもあります。反対に、クレジットカードや税金等の滞納があると返済能力がないと判断されるため、融資を受けることはできません。複数の銀行取引がある場合には、各金融機関の融資額やシェア割合を気にする傾向もあります。

 

ここまで、銀行の判断基準をご説明しました。次にノンバンクの判断基準をご紹介します。顧客の預金を貸し出す銀行と違い、ノンバンクは自社の資金を貸し出すため、銀行よりもリスクを取った審査をしています。

 

カードローンは、最短即日とスピーディな対応をすることに特化しているため、審査項目はスコアリングがメインとなります。提出された書類や現在の借入金額・件数などの情報を、膨大な顧客層から導き出されたデータをもとにして返済能力を判断します。延滞履歴がある場合には、融資を受けることは難しくなります。「定性評価」「実態評価」「資金使途」などの審査項目はほとんどありません。

 

不動産担保ローンは、最短3日~1週間程度とスピード感のある対応をしています。前述のとおり、ノンバンクは今後の事業計画を重視するため、「定量評価」よりも「定性評価」「事業計画と返済の見通し」がポイントになります。また、他にはない「不動産の評価」の審査項目が加わります。お客様の与信判断に不動産価値を盛り込むことが特徴です。
詳しくは、不動産担保ローンの審査基準とは?審査通過のポイントをご紹介をご覧ください。

  個人事業主が融資を受けるには  

個人事業主の資金調達方法として、最低限抑えるポイントを創業時と創業後に分けてご紹介します。

 

「創業時」
創業時の融資を受けるためには事前の準備が大切です。
創業時の資金調達先として、前述の日本政策金融公庫の他に信用金庫・信用組合がおすすめです。銀行の中でも地域に密着した金融機関であるため、地域の方であれば親身に対応してくれます。これらの金融機関は「創業塾」など呼称はそれぞれですが、創業を希望する方向けに様々なセミナーを開いています。セミナーへの参加を通して経営者としての知識が身に付くこと、金融機関の担当者と顔見知りになることもプラスに働くでしょう。
創業時は、「定性評価」「資金使途と融資希望額の妥当性」「事業計画と返済の見通し」がポイントであり、相談者に寄り添ったアドバイスをしてくれることもあります。ただし、クレジットカードや税金等の滞納があると融資を受けることはできません。

 

「創業後」
創業後は、「開業届が出ていること」「確定申告をしていること」「基本的に黒字であること」が融資を受ける前提となります。前述の銀行の審査項目と同じです。
黒字でなかった場合、経営者が自らの言葉で経営状況や今後の事業展望について説明し、事業計画や返済計画を具体的に示すことができれば、地域に根差した信用金庫・信用組合であれば融資を受けられる可能性があります。常日頃から金融機関の担当者にはコンタクトを取り、積極的に事業実績の報告をしましょう。
また、昨今の金融機関はビジネスマッチングに積極的であるため、地域のシナジー効果を高めるために顧客同士のマッチングをする動きが活発です。反対に言えば、事業者の売り上げを拡大するために他社に営業活動をしてくれることになります。融資以外の付き合いも含め、金融機関の担当者と良好な関係を築くことが大切です。

  まとめ  

事業資金についてご説明しましたがいかがだったでしょうか。
事業を開始する時は、決して有利な条件で資金調達ができるわけではありませんが、事業資金の融資を受ける環境はあると言えます。事業を継続している時のほうが審査項目も多くなり、実績次第では融資を受けることが難しくなります。常に右肩上がりに成長を継続できることは稀であるため、その時々で融資を受ける金融機関を変える必要があります。それぞれの金融機関の審査ポイントを知っていただき、多様な資金調達手段の中から自分に適している方法を検討するようにしてください。

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