債務者と債権者の違いは?関係性や効力について徹底解説

債務者と債権者の違いは?関係性や効力について徹底解説

 

債務者と聞くと、金融機関からお金を借りている人というイメージを持たれるのではないでしょうか。実は、日常生活の中で債務者や債権者という立場は身近に存在しているものです。このコラムをご覧いただく皆様においても、知らず知らずのうちに一度はなったことがあるはずです。今回は、債務者や債権者とはどのようなものかを効力や権利などを含めて説明していきます。

  債務者と債権者の関係性とは?  

まず、債務者と債権者についてご説明します。

 

「債務者」
債務者とは、債権者に何らかの行為をする義務がある人を指しており、その義務のことを債務といいます。債務には、「お金を借りた人」が返済をする、「家を借りている人」が家賃を支払う、「モノを購入した人」が代金を支払う、「雇用主」が給与を支払うなどの金銭にまつわるものや、「従業員」が労働力を提供する、「モノを提供する約束をした人」が物品を引渡すなどの行為も含まれます。債務を履行する義務のある「人」にあたる方は全て債務者と呼びます。

 

「債権者」
債権者とは、債務者に対し何らかの行為を請求できる権利がある人を指し、その権利のことを債権といいます。前述の例にならうと、債権とは、債務を受け取る権利のことであり、その権利がある人を債権者と呼びます。

 

それでは、債務者と債権者の関係性とは、どのようなものなのでしょうか。
一言で表現するならば、「ある一つの事柄を対象に一対である者」と言えます。「親子」という概念には「親」と「子」が存在し、「夫婦」という概念には「夫」と「妻」が存在するようなものです。
債権と債務は一対のものであるため、必ず債権者と債務者の両者が存在し、両当事者間において権利と義務が発生します。ただし、「ある一つの事柄」の内容によって、お互いが債権者や債務者になったり、どちらか一方が債権者もしくは債務者になることがあります。関係性の理解を深めるために、双務契約と片務契約について詳しく解説しましょう。

 

「双務契約」とは
当事者双方が、お互いに権利と義務を負っている契約を指します。
売買契約の場合には、モノの引き渡しについては「売主が債務者」「買主が債権者」となり、代金の支払いについては「売主が債権者」「買主が債務者」となります。雇用契約の場合には、労働力の提供については「従業員が債務者」「雇用主が債権者」となり、賃金の支払いについては「従業員が債権者」「雇用主が債務者」となります。

 

「片務契約」とは
当事者一方が、固定的に権利または義務がある契約を指します。
贈与契約の場合には「贈与者が債務者」「受贈者が債権者」であり、消費貸借契約の場合には、「借主が債務者」「貸主が債権者」となります。
消費貸借契約と同様に借主・貸主という用語を用いる賃貸借契約は、片務契約ではありません。賃料については「借主が債務者」「貸主が債権者」となりますが、目的物の使用収益については「借主は債権者」「貸主は債務者」となるため、双務契約となります。

 

【ワンポイント豆知識】

財産的な価値に関する権利には、「債権」の他に「物権」という権利があります。
「債権」とは、これまでご説明したように、「特定の人」に対して何らかの行為を請求できる権利であり、特定の人以外の第三者には主張することはできません。したがって、相対的な権利であると言えます。
一方「物権」とは、「モノ」に対して直接的に支配する権利であり、全ての人に対して主張することができる絶対的な権利です。不動産などに関わる所有権は典型的な物権となります。
その他の違いとして、排他性の有無という概念があり、「債権」には排他性がなく、「物権」には排他性があることがあげられます。

  債権者が保持する効力とは?  

債権者は債務者が負っている義務を果たさない場合に、その義務の履行を請求するための様々な効力や権利を持っています。債権者が持つ3つの効力と2つの権利についてご説明します。

 

「給付保持力」
債権者は、債務の履行によって受け取った給付を保持することができるという効力です。何らかの債権に対する債務の履行を受けた場合、それを返す必要がないということです。例えば、ショッピングで代金を支払って物品を購入した後に、お店側から返金するので返品して欲しいと依頼されたとしても、それを拒むことができることなどがあげられます。

 

「訴求力」
債務者が義務を履行しないときに、訴訟を起こして請求することができる効力です。裁判所を介して手続きを行うことにより、個人間の契約も判決によって公的に認められることとなります。通常は、請求債権を認めてもらう訴えと共に具体的な執行手続きについての訴訟提起をし、判決後に迅速に対応できるようにします。

 

「執行力」
裁判所の判決によって請求債権を確定させ、強制執行することができる効力のことです。一般的には債務者の財産に対して差押えをすることとなり、差押えの対象は生活用品を除いた動産や不動産、給与、預金口座など多岐に渡ります。

 

「損害賠償請求権」
債務者が義務の履行を怠ったことによって債権者に不利益や損害が発生した場合に、債務者に対して金銭で賠償するよう請求できる権利です。飲食店で注文していた食材が入荷されなかったことによって営業ができなかった場合や、車を注文していたが納車されず別の交通手段を取らざるを得なかった場合などの様々なケースが想定されます。金銭消費貸借契約の場合には、あらかじめ定められた料率の損害金を支払うこととなります。

 

「解除権」
契約は有効に成立したものの、債務者が義務を果たさない場合には、契約を解除することができる権利です。契約が解除された場合には、債権者並びに債務者は原状回復義務(契約前の状態に戻す義務)を負うこととなります。解除をする場合、債権者は一定の期間内に債務を履行するように催促し、それでも履行されなかったという事実が必要とされているため、後になって催促をしたことを証明するために内容証明郵便で催促を行うことが一般的です。なお、金銭消費貸借契約における債務の履行を怠った場合には、契約の解除ではなく、期限の利益喪失による一括返済の請求がされることになります。

 

この様に債務者がその義務を果たさない場合、債権者はその効力や権利を行使して自身の債権を保全することができることとなっています。

  債権者が債務者に対して効力や権利を行使する方法について  

では、具体的にどの様な方法で効力や権利を行使していくのでしょうか。まず、債権者が効力や権利を行使するにあたり、前述した片務契約と双務契約の観点からご説明します。

 

片務契約の場合には、債権者は一方的に債務者に対し義務の履行を求めることができます。
しかし、双務契約の場合には、同時履行の抗弁権と呼ばれる権利があるため、一方的に債務の履行を求めることはできません。同時履行の抗弁権とは、契約の各当事者は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる権利をいいます。つまり、相手に義務の履行を求める場合には、自身が負っている義務を履行することが必要となるのです。物品の売買を例にすると、当事者それぞれの立場によって、その対価の支払いを済ませることまたは物品を引き渡すことが必要です。
自身の債務を履行したにもかかわらず相手方が債務の履行を果たさないときに、自身の債権を守るべく、債権者は効力や権利を行使することができるようになります。

 

次に、具体的な方法をご紹介いたします。

 

債務者に対し督促を行う
債権者がその効力と権利を行使する場合には、債務者に債務の履行を求め、履行期日を定めることが必要となります。一般的には、債務者に対して電話をしたり、通知書を送るなどの方法で督促を行います。通知書は、通常の文書で送ることもあれば、郵便局が公的に証明する内容証明郵便で送ることもあります。通知書の内容は、比較的穏便な表現で記載されているものもあれば、法的手段を検討している内容のものもあるようです。

 

債務者を被告とする訴訟を提起する
債権者が一定の期間を定め督促をしたにもかかわらず債務者がその履行を行わない場合、債権者が訴求力を行使するために訴訟が提起されます。訴訟が提起されると、裁判所から債務者に対し、訴状と共に裁判を行う期日が指定された呼び出し状が届きます。この期日を無視すると、裁判所は債権者の主張を認める判決を下すこととなりますので、債務者は期日に出廷する必要があります。
裁判は、事実関係を認定した上で当事者同士の問題を解決する事が目的となりますので、お互いの主張を出すとともに、今後の解決方法などの提案をすることとなります。例えば、債務を履行する期日を改めて指定したり、一括ではなく分割して履行することが提案されたりするようです。
債権者の事情や提案内容によりますが、債権者が債務者の提案を受け入れてくれた場合には和解が成立します。反対に、債権者が和解をする必要がないと判断した場合には、訴訟提起の目的に従って、裁判所が是非を判断して判決が下されることとなります。

 

和解が成立するか判決が下りた場合
和解が成立した場合には、和解調書が作成されます。確定した債権債務の内容や債務の履行期日が明記されるとともに、履行しなかった場合には即座に法的手段を取ることができる旨が明記されます。
また、債権者が勝訴する判決が下された場合には、債権者は債務名義(強制執行するために必要な文書)を取得し、執行力を行使するために強制執行の手続きをして差押えを行います。
前述のとおり、差押えをする財産としては、直接的に金銭が対象となる給与や預金口座の他に、換価することが可能な不動産や動産(生活用品は除く)などが対象となることがあります。また、賃料の支払いをしない賃借人に対する場合には、建物の明け渡しを求める強制執行をすることもできます。
その他に、債務の履行がされなかったために損害を被った場合には、債務者に対して損害賠償請求権を行使して金銭賠償を求めることもできます。

 

以上が、債権者が債務者に対して直接債務の履行をさせるための方法になります。
一方で債権者からすると、その手続きや管理自体に膨大なコストをかけることとなるため、債権譲渡の方法をとることもあります。債権者からすると、割り引かれた金額で債権の譲渡先(譲受人)に債権を買い取ってもらうことになりますが、その分手間をかけなくても換金できることがメリットとなります。一般事業会社の場合、手形の割引と近い感覚で売掛債権を譲渡(ファクタリングといいます)したり、銀行や消費者金融などの場合には、延滞債権などを債権回収会社に譲渡することもあります。債権譲渡が行われた場合、債務者が債務を履行する相手は債権の譲受人(上記の場合はファクタリング会社や債権回収会社)となります。

  まとめ  

今回は、債務者と債権者の違いや債権者の権利や行使の方法について具体的にご紹介しました。社会生活においては双務契約がほとんどであるため、皆様も日常の様々な場面で双務契約を締結されていることを認識いただけたかと思います。
債権者や債務者という用語を聞くと敬遠したくなると思いますが、誰しもがなったことがある身近な存在です。知らず知らずのうちになってしまうと、思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。この記事をきっかけとして債権者や債務者についての正しく理解していただければ幸いです。

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