債務不履行とは?その種類や対応策をご紹介
私たちは日々の生活の中で様々な契約を行っています。契約という言葉を聞くとやや構えてしまうかもしれませんが、タクシーに乗る、お店でモノを買う、飲食店で食事をするなどの日常の行動の中に、いくつもの契約が存在しています。 契約が存在するということは、お互いに必ず守らなければならない約束事が生じることになります。約束が果たされなければ、相手方に約束を果たすよう求めることができ、不利益を被った場合には補てんを求めることができます。 契約に伴って発生する約束が果たされない状態を「債務不履行」と呼びますが、今回は債務不履行の種類や対応策について、金融機関の扱いも交えながら説明します。 |
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債務不履行とは
「債務不履行」が発生するためには、当事者間での契約が必要です。契約は書面で行うものという認識を持たれている方が多いと思いますが、口頭であっても契約は成立します。後々のトラブルを回避するために、重要な事柄であればあるほど書面によって取り交わされることが一般的です。
契約が成立すると、当事者は債権債務を有する関係となり、お互いに債権者・債務者という立場になります。法律用語では、「債権者」を給付を受ける権利を持つ者、「債務者」を給付を果たす義務を負う者としています。
身近な例として、飲食店とお客様の関係で考えると理解しやすいかもしれません。
料理を注文した際には、債務者は飲食店となります。料理を出す義務が生じるためです。反対に債権者は料理を受け取る権利を持つお客様となります。 食事後に代金を支払う際には、債務者は支払義務のあるお客様、債権者は代金を受け取る権利を持つ飲食店となります。
「債務不履行」とは、契約によって成立した債務が履行されない状態のことです。
上記の飲食店の場合には、注文した料理が出されない状態やお客様が代金を支払わない状態のことを指します。意図的に履行しなかった「故意」によるものであるか、注意不足により履行を怠った「過失」によるものであるかを問わず、債務不履行は成立します。
金融機関から資金調達をする場合、金銭消費貸借契約を締結します。
融資金をお客様が受け取るまではお客様が債権者であり、融資金を渡す義務のある金融機関が債務者となります。融資金の引き渡し後、契約書どおりの返済義務を負うお客様は債務者となり、金融機関は返済を受ける権利を持つため債権者となるのです。契約書どおりの債務が履行されない場合、債務不履行となり、債務者であるお客様は期限の利益を失い、債権者である金融機関は債権の保全措置を取ることが可能となります。
債務不履行の種類
約束が果たされない状態を債務不履行と呼びますが、その状態は様々です。債務不履行の種類を飲食店を例にして説明します。
例えば、下記①~③の理由で債務不履行が発生してしまったとします。
① 一旦注文を受けたが、注文された料理の食材が無くなってしまっていた。
② 注文を受けてから10分以内に提供する約束をしていたものの、15分かかってしまった。
③ 料理を提供したが、注文されたものと違うものを出してしまった。
いずれの状態も債務不履行ではありますが、それぞれ状況が異なっています。
債務不履行は、「履行不能」「履行遅滞」「不完全履行」の3種類に分かれます。
「履行不能」
根本的に債務の履行ができなくなった状態のことです。
①のように、食材が無くなってしまったことにより、料理そのものを提供できなくなった状態を指します。その他の具体例とすると、不動産の売買契約締結後の引渡し前に不動産が火事で焼失してしまったケース、顧客の注文で一点物の商品を取り寄せたにもかかわらず紛失してしまったケースなどが該当します。
「履行遅滞」
債務の履行は可能であるものの、期限が過ぎても履行が行われない状態のことです。
②のように、約束していた提供時間に遅れてしまった状態を指します。その他の具体例としては、レンタルDVDの返却期限を過ぎてしまったケースやフライト予定時刻に飛行機が飛ばないなどのケースが該当します。
「不完全履行」
債務の履行自体は行いますが、不完全な状態となっていることです。
③のように、料理の提供自体はしたものの注文と異なる料理を提供してしまった状態を指します。その他の具体例としては、注文された数に対して納品数が不足しているケースや購入した本のページが落丁しているようなケースが該当します。
金融機関との取引においては、債務不履行は全て「履行遅滞」となります。
世の中から金銭自体の存在がなくなるわけではないため「履行不能」とはならず、そもそもの金銭の性質は可分(分割できる)なものであるため、部分的な返済を行った後に残りの金銭を返済することができることから「不完全履行」とはならないのです。
債務不履行が発生した際の対応策
債務不履行が発生すると、債権者は不利益を被ることとなります。
例えば、仕入先から材料を仕入れ、自社で製造し、注文先のお客様に納品する業務を行っていた場合、材料の仕入れができなければ製品にすることができず、本来予定していた売上をあげることができません。加えてお客様の信頼を失い、今後の取引を見直される可能性もあります。
ここでは、債務不履行が発生した場合に、債権者が債務者に対して取ることができる対応をご説明します。
「契約解除」
契約の解除には、当事者双方の合意が必要ですが、債務不履行が発生していれば、債権者の意思で解除することができます。
「履行不能」の場合には、契約どおりに履行することがそもそもできないため、契約を解除することになります。解除に必要な事項や方法については、当初の契約であらかじめ定められていることがほとんどで、即時解除することができる場合や事前の催告を要する場合などが盛り込まれています。
「強制執行」
強制執行とは、債権者が債務者に対して法的に履行を求めることを指します。
債権者は債務者に対し、契約の履行を求める訴訟を提起し、勝訴判決が出たにもかかわらず債務者が債務の履行をしない場合、裁判所に強制執行手続きの申し立てを行い、債務者の財産を差押えて債権を回収します。
「履行遅滞」や「不完全履行」の場合に適用されることとなります。
「完全履行請求」
完全な物の引き渡しや不完全な部分の修復を求めることができます。
「不完全履行」の場合には、契約どおりの完全な履行を求めることとなります。
「損害賠償請求」
債務不履行によって損失が発生した場合には、相手方にその損失の補てん(損害賠償)を求めることができます。
債務者に請求することができる損失の範囲は、契約上の特別な定めがない限り、「債務不履行により通常発生する損害」+「本来得られたはずの逸失利益」となっています。
「履行不能」「履行遅滞」「不完全履行」のいずれの場合でも請求することができます。
損害賠償請求をされる債務不履行とは
債務不履行による損害賠償義務が発生するケースについて、掘り下げて解説します。
民法では「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」とされています。
すなわち、債務の履行を怠った事が、債務者の事情による場合には損害賠償を請求でき、天災などやむを得ない事情で不履行となった場合には請求ができないということになります。
損害賠償請求が成立する要件を整理すると下記のようなケースとなります。
・契約が存在すること
・債務の履行が行われなかったこと
・損害が発生していること
・その損害が相手方の債務不履行によるものであること
・債務不履行が天災などではなく債務者の責任であること
損害賠償が発生する具体的な事例を3つご紹介します。
「金銭の支払遅延」
モノやサービスの対価として金銭を支払う契約をし、約束した期限までに支払いをすることができない場合には、「履行遅滞」となり、債権者である相手方から損害賠償金の請求をされます。一般的に金銭債務における損害賠償金は、(遅延)損害金となります。(遅延)損害金は、支払いを履行するまでの間は発生し続けます。
金融機関との取引においても、返済期限までに返済することができなければ(遅延)損害金が請求されることとなります。
「不動産売買」
不動産売買契約には、2つの債務不履行の種類があります。
履行遅滞
・買主が売主に対して売買代金を支払わない場合
・売買代金が支払われたにもかかわらず売主が対象となる不動産の引き渡しを行わない場合
履行不能
・売買契約締結後、対象物件が滅失してしまった場合
「履行遅滞」の場合には、相手方に履行するよう催告をし、それでも履行されない場合には契約を解除することになり、「履行不能」の場合には催告なしに契約を解除することができます。
ほとんどの不動産売買契約書には、「損害賠償額の予定」として損害賠償金の金額が記載されています。
「運送関係」
運送関係の場合、全ての債務不履行の種類が存在します。
履行遅滞
・契約で定められた期日に運搬することができなかった場合
履行不能
・届け先にとって定められた期日にモノが届かなければ無意味になる(必要がなくなる)場合
不完全履行
・届け先へと運搬したものの荷物が破損していた場合
債務不履行の種類によって、それぞれの損害賠償金が異なってくることとなるでしょう。
債務不履行による損害賠償の時効
債務不履行による損害賠償請求権は、一定期間をもって消滅します。
2020年4月の民法改正前は、商事債権と一般債権に分けて時効が定められていましたが、改正後は統一されました。原則は債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年、債権者が権利を行使できる時(客観的起算点)から10年となります。
通常、損害が発生した時には損害賠償請求権を行使することができることを知るため、稀なケースを除き5年の経過をもって時効となります。稀なケースであったとしても、永久に権利を行使することができるのは不適切であるため、客観的にみて権利を行使できる時から10年と定められました。
まとめ
今回は債務不履行についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
本文中でご紹介したとおり、債権債務の関係は表裏一体です。商品やサービスの提供を受け、その対価を支払う。日常生活の中で何気なく行われていますが、サービスを提供する側・享受する側のどちらも債権者・債務者の立場になり得るということがご理解いただけたかと思います。
とりわけ、トラブルになりやすいのはビジネスの場における債務不履行です。
事業を行う中で経営環境は日々変化していきますが、自身の取引先が債務不履行となり損害を被る可能性や、自分自身が契約を履行できない状況に陥ることも十分に考えられます。
債務不履行が発生した場合には、すぐに履行完了に向けた行動をする又は行動してもらうことが重要です。判明した時点で相手方に一報を入れ、その後の対応策を協議することも必要になります。
そのようなことにならないためにも、時代の変化に合わせ、日々の業務を改善していきたいものです。