抵当権とは?設定・抹消の方法と抵当権の登記手続きを解説!

抵当権とは?設定・抹消の方法と抵当権の登記手続きを解説!

 

不動産担保ローンは、比較的低金利で長期返済の借入ができるなどメリットの多い商品です。

担保の種類には「抵当権」「根抵当権」がありそれぞれの特徴や役割があります。不動産担保ローンを有効に利用するにはその特徴や役割をよく理解することが不可欠です。本章では抵当権と根抵当権の違いから、利用中の注意点、完済後の手続き等を含め詳しく説明します。

 

 抵当権とは?  

抵当権とは、債務者が債務を履行しないとき、債権者が、担保不動産を売却して優先的に弁済を受けられる権利です。

民法第369条に定められています。

 

主な目的:債権の担保のために設定されます。つまり、貸したお金を確実に回収するための仕組みです。

 

対象となる財産:主に不動産(土地・建物)及び登記できる財産(地上権など)

※動産には原則として抵当権は設定できません(質権を使うのが一般的です)。

 

抵当権の特徴:以下のとおりです。

特徴 内容
1.不占有担保 目的物を引き渡さずに、所有者がそのまま使用・収益できる。
2.登記によって成立・効力発生 登記簿に記録されることで、第三者に対抗可能。
3.付従性 債権とともに存在する(債権が消滅すれば抵当権も消滅)
4.随伴性 債権が譲渡されると抵当権も一緒に移転する。
5.優先弁済権 債務不履行のとき、他の債権者より優先して弁済を受けることができる。

 

抵当権の効力:目的物の換価価値に及ぶ(物そのものではなく、売却して得た代金に効力が及ぶ)

抵当不動産の範囲内で優先弁済を受けることが可能

第三取得者(抵当不動産を後から買った人)にも効力を及ぼす

 

 抵当権の仕組みをわかりやすく解説

抵当権は、主に住宅ローンなどの借入をするときに使われる担保の仕組みです。

 

抵当権とは、簡単に言うとお金を借りる人が、自分の不動産(土地・建物など)を担保にして、もし返済できなかったら、貸した人がその不動産を売ってお金を回収できる権利 のことです。

 

あなたが銀行から 3,000万円の住宅ローン を借りて家を買うとします。

銀行はお金を貸す代わりに、その家を担保にします。あなたの家には「抵当権」という権利が登記されます。

きちんと返済している間は家を普通に使えますが、万が一返済が止まると銀行はその抵当権を使って家を競売にかけ、売ったお金から残りのローンを回収します。

 

≪抵当権の特徴≫

項目 内容
担保の対象 主に土地・建物などの不動産
登記が必要 登記簿に登録しないと効力が発生しない
占有不要 不動産を持ち主が使ったままでOK
優先弁済権 競売になったとき、他の債権者より優先して弁済を受けられる
消滅のタイミング 借入を完済した時に抹消登記

 

抵当権の登場人物 抵当権者・抵当権設定者・債務者の関係

抵当権(ていとうけん)の登場人物は、主に次の3者です。

 

1. 抵当権者(ていとうけんしゃ)

抵当権を持つ人。つまりお金を貸した側(債権者)です。

お金を借りた人(債務者)が返済しない場合に、抵当権を行使して担保不動産を競売にかけ、そこから優先的に弁済を受けることができます。

 

2. 抵当権設定者(ていとうけんせっていしゃ)

不動産に抵当権を設定する人(所有者)です。自分の所有する土地や建物を担保に提供します。抵当権設定者は、必ずしも債務者と同一人物とは限りません。

 

 3. 債務者(さいむしゃ)

お金を借りた人。返済の義務を負う人です。債務を履行できなければ、抵当権者が抵当権を実行します。抵当権設定者と同一の場合もあれば、異なる場合もあります。

 

<まとめ>

立場 主な役割 典型的な例
抵当権者 お金を貸す人、担保権を持つ 金融機関
債務者 お金を借りる人 借主本人
抵当権設定者 不動産を担保にする人 借主本人or保証人


 

もしローン返済できなくなったら?抵当権の実行(競売)について

「抵当権の実行(ていとうけんのじっこう)」とは、債務者が借入金などの債務を履行しない(返済しない)場合に、抵当権者(お金を貸した側)が担保として設定されている不動産などを処分して、その代金から優先的に弁済を受けることをいいます。

 

<抵当権実行の流れ>

① 債務不履行の発生

債務者(借り手)が約束通り返済しない場合に、抵当権者(金融機関など)は抵当権を行使できる状態になります。

 

② 抵当権の実行方法の選択

抵当権の実行には、主に2つの方法があります。

 

(1)裁判所を通じた「競売」

抵当権者が裁判所に申し立てる。

裁判所が不動産を差押え・評価・入札・売却。

売却代金から優先的に弁済を受ける。

➡ 一般的で、金融機関がよく用いる方法です。

 

(2)当事者間の「任意売却」

抵当権者の同意を得て、債務者自身が市場価格に近い価格で売却する。

売却代金を抵当権者へ支払い、残債の整理を図る。

➡ 競売よりも高く売れる場合が多く、債務者にもメリットがあります。

 

 

③ 売却代金の配当

抵当権者は、売却代金から他の債権者に優先して弁済を受けます。

残金があれば、債務者や他の債権者に分配されます。

 

抵当権設定後も使用収益権限は所有者にある

所有者は抵当権設定後も不動産を自由に利用することができます。居住や売却だけでなく、第三者に賃貸中であれば賃料収入を得ることも可能です。このことを法律的には使用収益の権限があると言います。使用収益とは「物を直接利活用して利益・利便を得ること」を言い、抵当権設定後であっても不動産から得られる果実(利益)を受け取る権利を有します。
この点が、抵当権と同じ約定担保物権である質権と大きく異なります。質権は目的物を債権者に引き渡すことで効力が発生する担保物権であり、質入れ中は所有者が目的物を利用することはできません。

 

抵当権が行使されるとどうなる?競売のリスク

抵当権の実行における競売のリスクは、債務者及び抵当権設定者(お金の借主・不動産の所有者)側と債権者(お金の貸主)側の両方に存在します。
以下でそれぞれの立場から整理します。

 

1.債務者及び抵当権設定者側のリスク

① 市場価格より大幅に安く売却される

競売では市場より2〜4割ほど安く落札(売却)されることが多い。

そのため、売却後も「残債(借入金が残る)」ケースが多い。

 

② 強制的に退去させられる

裁判所からの明渡命令により、最終的にはそれまでの入居者は強制退去になる。

任意売却のように引越し時期を相談する余地が少ない。

 

③ 個人情報・プライバシーの侵害

競売公告は裁判所のウェブサイトなどで公開され、住所・写真・間取り・評価額などが誰でも見られる。近隣住民や職場に知られるリスクが高い。

 

④ 信用情報への登録

債務不履行として信用情報機関に事故情報が登録される。

今後、数年間ローンやクレジットカードが利用できなくなる可能性が高い。

 

⑤ 精神的負担

裁判所や執行官の関与、退去勧告、公告など、手続が公開的・強制的に進むため、心理的ストレスが非常に大きい。

 

2.債権者(金融機関など)側のリスク

① 回収額の低下

市場価格より低く売れるため、債権を全額回収できない可能性が高い。

債務者が残債を支払えなければ、実質的な損失となる。

 

② 時間とコストがかかる

裁判所での手続や評価、入札公告、売却までに半年〜1年以上かかることが多い。

手続き費用の立替えが発生する。

 

③ 不動産の価値下落リスク

競売手続中に不動産の管理が悪化(放置・損壊・嫌悪施設化)することがある。

結果として、売却価格がさらに下がる場合がある。

 

抵当権の4つの法的性質

抵当権には「付従性」「随伴性」「不可分性」「物上代位性」という、4つの法的性質があります。

 

・付従性

抵当権は被担保債権を担保するための権利であるため、被担保債権が成立していなければ抵当権も成立しません。融資金を全額返済した場合には、抵当権の効力も消滅します。

 

・随伴性

被担保債権が他の債権者に移転された場合、抵当権も一緒に移転します。住宅ローンを延滞すると金融機関から債権回収会社(サービサー)に債権譲渡されますが、同時に抵当権もサービサーに移転することとなります。

 

・不可分性

被担保債権が全額弁済されるまでは、担保となっている不動産全体に対して抵当権の効力が及びます。融資金の一部を弁済しても、抵当権の一部が消滅することはありません。

 

・物上代位性

担保不動産が消滅して他の財産に変わった場合や担保不動産から得られる賃料などに対しても抵当権の効力は及びます。例えば、建物が火事で消滅した場合の火災保険金や債務不履行後の受取賃料については、所有者に支払われる前であれば抵当権者は差押えることができます。

 

 抵当権と根抵当権の違いとは?  

「抵当権」と「根抵当権」は、どちらも不動産を担保に債権を保全する権利ですが、債権の範囲・目的・使われ方 が大きく異なります。

 

1.抵当権とは

特定の債権を担保するために、債務者の不動産に設定される担保権。

例:住宅ローンなど、1回の借入金に対して利用されることが多い。

 

2.根抵当権とは

将来にわたって変動する一定範囲の債権を担保するために、不動産に設定される担保権。

例:事業資金など、借入・手形貸付・当座貸越など反復継続的に行うものに対応できる。
・将来の借入も含めて「極度額5,000万円」で根抵当権を設定。
・極度額の範囲内であれば、何度も借り入れ・返済を繰り返せる。

 

3.抵当権と根抵当権の比較表

比較項目 抵当権 根抵当権
担保する債権

特定の一つの債権

(例:住宅ローン)

将来発生する不特定多数の債権
金額の扱い 債権額が確定している 「極度額(上限額)」のみ決める
債権の変動 不変(設定後に変更できない) 変動(借入や返済を繰り返せる)
主な利用者 個人 企業・事業者

 
 
 

 

 

 抵当権付きの不動産を売却する3つの方法  

抵当権が付いた不動産を売却する方法は、大きく分けて3つあります。
それぞれの方法によって、手続きやリスク、売却後の負担が大きく変わります。

 

抵当権付き不動産を売却する3つの方法

① 通常売却(完済型売却)

売却代金で住宅ローンの残債をすべて完済し、抵当権を抹消してから買主に引き渡す方法。最も一般的で、抵当権付き物件の基本的な売却手順です。

利用できる人:売却代金でローンを全額返済できる。手持ち資金で不足分を補える場合。

(ローンを全額返済できない場合には、利用できない)

 

② 任意売却(金融機関の同意型)

売却価格がローン残高を下回る場合(オーバーローン)に、金融機関の同意を得て抵当権を抹消してもらう方法。
売却後も残債は残りますが、分割返済などに応じてもらえる場合があります。

方法と流れ:金融機関に任意売却の申請⇒同意を得て不動産会社が販売活動⇒売却代金を返済に充当⇒残債について分割返済

 

③ 競売(強制売却)

ローンの返済が滞り、金融機関が裁判所を通じて強制的に不動産を売却する方法です。
抵当権実行による最後の手段になります。

流れ:ローン滞納⇒金融機関が競売申立て⇒裁判所が入札による売却を実施⇒売却代金でローン返済(ローンが完済にならない場合は、残額を返済する義務が残ります)

 

 抵当権付きの不動産は相続できる?  

抵当権が設定されている不動産であっても相続は可能です。

ただし、抵当権も一緒に引き継ぐことになります。

不動産そのものだけでなく、その不動産に付いているローン(債務)も相続に関係してくることになります。

 

① 不動産そのものは相続対象

抵当権が設定されていても、所有権は被相続人(亡くなった方)にあるため、
その所有権は相続人に引き継がれます。

→ つまり、「抵当権付き不動産」も相続登記で相続人名義に変更できます。

 

② 抵当権(担保)はそのまま残る

抵当権は、債権者(金融機関など)が持つ権利なので、不動産を相続しても自動的に消えることはありません。

相続後も抵当権は残り、ローンの返済が滞ると競売にかけられる可能性があります。

 

③ ローン(債務)も相続の対象になる

抵当権が設定されているということは、通常住宅ローンなどの借入金があります。
その借入金も相続の対象となります。

 

上記①~③を考慮し相続するかどうかを選ばなければなりません。

 

相続時の3つの選択肢

選択肢 内容 ポイント
①単純承認 財産も負債もすべて相続 最も一般的だが、ローン残債も引き継ぐ
②限定承認 プラスの財産の範囲で負債を返済 相続財産内で完結、損を防げる
③相続放棄 すべての財産・債務を放棄 不動産も借入金も相続しない

【注意点】
①相続放棄・限定承認はいずれも相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で手続きが必要です。

②住宅ローンが団体信用生命保険付きか確認する。

もし被相続人が住宅ローンを組む際に「団信」に加入していた場合、死亡時にローン残債が保険で完済されることがあります。その場合には抵当権は抹消できる為、その点も確認した上で判断することが望ましいです。

 

 抵当権設定登記の流れ

不動産に抵当権が設定されるまでの流れを簡単に説明します。

 

・金銭消費貸借契約の締結

債権者(お金を貸す側、例:銀行)と債務者(お金を借りる側)の間で、融資(ローンの実行)に関する契約を結びます。
この契約が、抵当権を設定する根拠となります。


・抵当権設定契約の締結

金銭消費貸借契約に基づき、債権者と不動産所有者(借主=所有者であることも、そうでないこともあります)との間で、「この不動産に(根)抵当権を設定します」という内容の契約を結びます。

担保権が抵当権の場合、契約書には債権者・債務者、債権額(借入金額)、利息、損害金などの情報が記載されます。

根抵当権の場合には、先述のとおり債権を特定するものではないため、債権者・債務者、極度額(取引の上限額)、被担保債権(対象となる取引の内容)などの情報が記載されます。

 

・必要書類の提出

法務局への登記申請に必要な書類(抵当権設定契約書、不動産所有者の登記識別情報または権利証、印鑑証明書、委任状など)を揃えます。
多くの場合、この段階から司法書士が関与し、書類の作成や準備を代行します。

 

・法務局への登記申請

対象となる不動産の所在地を管轄する法務局に対し、抵当権設定の登記を申請します。登記申請は、債権者と不動産所有者による共同申請ですが、通常は司法書士という登記の専門家に依頼して法務局への申請を行います。

登記申請時には「登録免許税」という税金を納める必要があり、税額は債権額(根抵当権の場合には極度額)の0.4%と定められています。

例:債権額(極度額)1,000万円の場合には4万円、債権額(極度額)5,000万円の場合には20万円

この登録免許税に司法書士の報酬を加えた金額が一般的に「登記費用」と呼ばれ、債務者(お金を借りる側)側がこの費用を負担することになります。

また、申請した日時によって、抵当権の順位が確定します。

 

 抵当権の抹消手続きと流れと費用

抵当権抹消登記(ローン完済後などに行う手続き)の流れと費用について、説明します。

 

抵当権抹消登記とは

住宅ローンなどを完済したときに、債権者(金融機関など)が設定していた抵当権(担保権)を登記簿から抹消する手続きです。
この登記をしないと、不動産の登記上はまだ担保が残っている状態となり、売却や新たな借入ができません。

 

<手続きの流れ>

① 金融機関から担保抹消のための書類を受け取る

完済後、銀行などから次のような書類が届きます。

□登記原因証明情報(解除証書または弁済証書)

□登記申請用の委任状

□登記識別情報通知(登記済証)

□会社法人等番号(金融機関から送付される文章に記載されていることが多い。法人の登記事項証明でも確認できます)

 

② 法務局に申請する書類を準備する

(1)自分で登記申請する場合。登記申請書を作成(テンプレートは法務局サイトでも公開されています)。手続きは③以降を参考にしてください。

 

(2)司法書士に登記を依頼。自分で手続きをすることはありません。

 

③ 管轄法務局に提出

登録免許税を納付、※収入印紙を申請書に貼付して納付します。

登録免許税(手数料)は下記の通りです:

 

区分

区分 税額
不動産1筆あたり 1,000円

例:土地1筆+建物1戸 → 合計2,000円

※司法書士に登記を依頼する場合は料金に含まれています。

 

④ 登記完了・登記完了証の交付

申請後、2~3週間程度で登記が完了します。完了後、「登記完了証」が交付されます。(郵送または窓口受け取り)

※司法書士に依頼した場合は司法書士から書類が届きます。

 

<費用の目安>

(自分でやる場合)

項目 金額
登録免許税 1,000円 × 不動産の数
郵送料 数百円~1,000円程度
合計 3,000円前後(2筆の場合)

 

(司法書士に依頼する場合)

項目 金額
登録免許税 1,000円 × 不動産の数
司法書士報酬 10,000円~15,000円程度
合計 15,000円~20,000円前後

 

抵当権の抹消とは何か?

「抵当権の抹消(ていとうけんのまっしょう)」とは、不動産につけられている抵当権という担保の権利を登記簿から抹消(削除する)ことをいいます。

 

抵当権とは?

お金を借りるときに、不動産(土地や建物)を担保として提供し、もし返済できなくなった場合には、その不動産を売って返済にあてられるという権利のことです。

 

抵当権の抹消とは?

住宅ローンなどをすべて完済したときには債権者(金融機関等)はその不動産に担保権を持つ必要がありません。
そこで、その「抵当権」を登記簿上から削除する手続きを行います。
これが 抵当権抹消登記(ていとうけんまっしょうとうき) です。

 

抹消しないとどうなる?

ローンは返し終わっても、登記簿には抵当権の記載が残り続けます。つまり見た目上は「まだ担保がついている不動産」という状態です。抹消登記を行っていないと以下のような不都合が生じます。

・そのままでは、不動産を売却できない。

・新たに住宅を担保にしたローンを組みにくい。

・相続や名義変更の際に手続きが複雑になる。

詳細については次の項目で説明していきます。

 

抵当権を抹消しない場合の3つのリスク

住宅ローンを完済しても「抵当権の抹消登記」をしないまま放置しておくと、実際に不動産の利用や取引に支障をきたすことがあります。

ここでは、抵当権を抹消しない場合の主な3つのリスクを説明します。

 

① 不動産を売却できない

登記簿上に「抵当権設定登記」が残っていると、買主や不動産会社は「この物件にはまだ担保がついている」と判断します。

つまり、買主が安心して購入できない。不動産会社や金融機関が取引を進めてくれない。

→ 結果として 売却が実質的に不可能 になります。

 

②新たな融資や担保設定ができない

抵当権が残っている不動産は、新しいローンの担保にしづらいことが多いです。

金融機関は担保の順位を重視します。担保順位1番でしか取扱いしない金融機関では担保に利用できないことになります。また担保順位2番以降でも取扱いしている金融機関でも返済が完了している抵当権は抹消が条件になる可能性が高いです。

→ 結果として、資金調達ができなくなる。または融資までに時間がかかるといった不利益が生じます。

 

③抹消登記の手続きが複雑になる

抵当権抹消をせずに時間が経つと、次のような問題が起きやすくなります。

抵当権者(金融機関)が合併・統合・廃業していて、誰が権利者なのか分からない。担当部署が変わり、必要書類の再発行が困難になったり、相当の時間を要す場合がある。

所有者が亡くなり、全額返済しているのかわからない。または抹消に必要な書類が見つからない、どの銀行に連絡すればいいかわからないといったトラブルが発生し、抹消登記が面倒になる他、相続についても影響を与えることがある。

 

<結論>

抵当権の抹消は義務ではありませんが、放置しておくと将来の取引・相続時に支障が出るため、ローン完済後はできるだけ早く抹消登記をすることが推奨されます。

 

 

抵当権の抹消をする際の手続きと費用について

まず、金融機関へ連絡して完済の意思表示をし、指示された手続きを行います。定められた期日に弁済を行い、抹消書類を受領します。金融機関から受領する書類は「解除証書(放棄証書・弁済証書)」「抹消登記委任状」「登記済証もしくは登記識別情報通知」「金融機関の資格証明書もしくは会社法人番号」の4点です。

 

その後、管轄している法務局へ出向き、抹消登記の申請を行います。登記申請書に必要な情報を入力し、申請書と金融機関から受領した書類4点を提出する事で手続きは完了します。

 

抹消登記に必要な費用は登録免許税のみであり、不動産1筆につき1,000円かかります。例えば2筆の土地上に建物が1筆の場合には3,000円の登録免許税がかかります。抹消の手続きは司法書士へ委任する事もできますが、登録免許税に加え司法書士の報酬が10,000円~20,000円程度かかるのが一般的です。
管轄する法務局は下記を参照ください。
参考:法務局「管轄のご案内  

 

 抵当権に関するよくある質問

自分の不動産に抵当権が付いているか確認する方法は?

自分の不動産に抵当権がついているかどうかを確認するのは簡単です。
法務局で取得できる「登記簿(登記事項証明書)」を見れば、一目で確認できます。

 

<抵当権の有無を確認する方法>

①登記簿(登記事項証明書)を取得する

法務局で不動産の「登記事項証明書」を入手します(所有者本人でなくても誰でも取得できます)。

 

取得方法は3つあります:

方法 説明 手数料
①窓口で取得 最寄りの法務局に出向き、申請用紙に住所や地番を記入して請求 1通600円
②郵送で請求 申請用紙、返信用封筒を郵送して取り寄せ 1通600円+郵送料
③オンライン(登記情報提供サービス) 法務局の登記情報をインターネットで取得 1通330円程度

※「不動産の所在地(住所ではなく地番)」が必要です。地番は、登記済権利証や固定資産税納税通知書などでも確認できます。

 

②登記簿の「権利部(乙区)」を見る

登記簿は大きく3つの部分に分かれています:

区分 内容
表題部 不動産の所在地、面積、種類など(物件の基本情報)
権利部(甲区) 所有者の情報、所有権に関する事項
権利部(乙区) 抵当権などの担保権、賃借権など

※抵当権は「乙区」に記載されます。

【例:抵当権が設定されているケース】

次のような記載がされている場合は抵当権が設定されていることになります。

抵当権設定 平成30年12月10日設定

原因 金銭消費貸借の同日設定

債権額 金1,000万円

抵当権者 ○○銀行

 

【例:抵当権が抹消されているケース】

次のように下線が引かれ、下記のような記載がある場合はすでに抹消済みです。

抵当権設定 平成30年12月10日設定

原因 金銭消費貸借の同日設定

債権額 金1,000万円

抵当権者 ○○銀行

抵当権抹消 令和2年5月15日抹消

原因 弁済

<注意点>

抵当権はローンを完済しても自動では消えません。抹消登記をしなければ、登記簿上は残り続けます。

所有権移転(売却・相続)を行う前に、抵当権が残っていないか必ず確認しましょう。

 

抵当権の抹消手続きに期限はありますか?

抵当権の抹消登記には法律上の期限(時効のような期間制限)はありません。
ただし、「期限がない=放置しても大丈夫」というわけではなく、長期間放置すると実務的なリスクが高まります。

以下で、法律上の考え方と注意点をわかりやすく説明します。

 

1. 抵当権抹消登記に法的な期限はない

抵当権抹消登記は、住宅ローンなどを完済した後に任意で行う手続きです。

民法や不動産登記法のどの条文にも、完済から◯日以内に抹消登記をしなければならない
という期限の定めはありません。

したがって、完済後すぐに手続きしなくても、数年後でも申請は可能です。

 

2. 放置には実務上のリスクがある

上記1に記載のとおり期限はありませんが、長期間放置すると次のような問題が起こりやすくなります。

<リスク>

①抵当権者(金融機関など)の合併・再編で書類が無効になる。

金融機関が発行する「抵当権解除証書」や「委任状」 には、銀行名や代表者印が押印されています。発行を受けてから時間が経つと、金融機関で合併・統合・商号変更などが行われ旧銀行名の書類を利用できなくなる可能性があります。その際には改めて金融機関から書類を再発行してもらう必要がある。

再発行は手間も時間もかかり、場合によっては実質的に不可能になることもあります。

 

②書類の紛失・期限切れ

金融機関から受け取った抹消登記の関係書類には、登記識別情報通知など再発行ができない書類もあります。完済直後に抹消登記を行う事が安全です。

 

③相続や売却時にトラブル

抹消しないまま時間が経ち所有者が亡くなったり、売却しようとしたときには事前に抹消登記をしなければならないことが殆どです。抹消登記を行っていないと借入金が全額返済されているかも不明であり、遺産分割協議に時間を要したり売却の際には売却できないこともあります。

<結論>抹消登記に期限はないが、完済後すぐに行うのが望ましいです。

 

金融機関からもらった抹消書類を紛失したらどうすればいい?

住宅ローンを完済した後に金融機関から受け取る「抵当権抹消登記に必要な書類」を紛失してしまうと、そのままでは抹消登記ができません。
ただし、再発行や代替手続きを取ることで解決できます。

以下で、状況別に詳しく説明します。

 

 1. 紛失した書類の種類と紛失時の対応

書類名 内容 紛失時の対応

登記原因証明情報

(抵当権解除証書や弁済証書)

金融機関が「ローン完済により抵当権を解除する」と証明する書類 金融機関に再発行を依頼
委任状 登記手続きを金融機関が委任したことを示す書類 金融機関に再発行を依頼
登記識別情報通知(登記済証) 抵当権設定時に発行された書類

再発行不可。

・法務局の事前通知制度(金融機関から実印での委任状が必要)

・司法書士等による本人確認情報作成(数万~)などの代替手段

会社法人等番号 金融機関の法人番号が記載されている文章 金融機関に再発行を依頼、または法人の登記事項証明書でも確認できる

2. 金融機関に再発行を依頼する

最初にやるべきことは、抵当権者(金融機関など)へ連絡することです。

ローンを完済した金融機関に連絡し抵当権抹消書類を紛失してしまったことを伝える。

金融機関は、本当に完済しているかの事実確認を行った上で対応してくれるはずです。

場合によっては同時に司法書士に抹消登記の依頼を行い、金融機関と直接やり取りしてもらう方法を取れば、よりスムーズに手続きが進むでしょう。

 

<結論>

書類を紛失しても抹消登記は可能であるが金融機関や司法書士の協力が必要であり、ある程度の時間も要すことからできるだけ早く行動をすることが大事になります。

 

共有名義の不動産の場合、抵当権はどうなりますか?

不動産が共有名義(複数人の所有)になっている場合、抵当権の扱いは少し複雑になります。「誰が借りたお金なのか」「どの持分に抵当権が設定されているか」で大きく異なります。以下で、仕組みと注意点を整理します。

 

抵当権は共有物全体に設定されることが基本ですが、共有持分の一部に設定されることもあります。

パターン 内容 よくあるケース
①共有者全員の持分に抵当権を設定 不動産全体が担保になる 共有者全員でローンを組んだときや、共有者の一人が借入するにあたりもう一人の共有者からも担保提供を受けた場合
②特定の共有者の持分だけに抵当権を設定 共有者のうち一人の持分だけが担保になる

共有者の一人が自身の持分だけを担保にして借入をした場合

※現実的には、持分のみの場合には担保として認めない金融機関が多い

 

2. 各パターンの具体的な内容

【パターン①】共有者全員の持分に抵当権が設定されている場合

不動産名義:夫の持分2分の1、妻の持分2分の1

夫婦連名でローンを組んだ場合や、どちらか一方が借主兼抵当権設定者、もう一方が抵当権設定者として契約を行った場合、抵当権は共有者全員の持分に及びます。
→ ローン完済後は、夫婦が連名で抵当権抹消登記を行う必要があります。

抹消書類には、共有者全員の署名・押印が必要です。

 

【パターン②】共有者の一人の持分だけに抵当権が設定されている場合

不動産名義:父の持分2分の1、子の持分2分の1

抵当権を子の持分のみに設定した場合、父の持分は担保になりません。

もし子が返済できなくなった場合、金融機関は子の持分のみを競売にかけることになります。

→ローン完済後は、子が抵当権抹消登記を行う必要があります。

抹消書類には、子の署名・押印が必要です。(父の署名・捺印は不要です)

 

共有不動産の場合、登記申請時に「どの共有者の持分に抵当権がついていたか」を正確に記載することが重要です。

もし「あなたの不動産がどちらのパターンか」を知りたい場合は、
登記事項証明書(登記簿)の「権利部乙区」に記載されている抵当権の対象持分を見れば分かります。

 

※ただし、共有者の持分のみを担保として認める金融機関はほぼありません。詳しくは当社コラムの「不動産担保ローンは共有名義でも借入可能?持分担保の方法と融資額の相場」をご覧ください。

 

 まとめ

この章では抵当権の基本的な仕組みから、根抵当権との違いやそれぞれの特色、万が一ローンの支払いが困難になったときの対処法などを紹介してきました。不動産を担保としたローンは比較的低金利かつ長期返済が可能など利便性の高い商品です。ネガティブなイメージを持っている方もいらっしゃるとは思いますが、きちんとした知識を身につけその利便性を生かすことが望ましいと考えられます。ここに紹介した事例以外にも抵当権に関する悩みや不安は数多く存在するでしょう。抵当権に関する相談は、司法書士や弁護士といった専門家、または法テラス、お住まいの地域の法務局や役所の相談窓口などでも受け付けています。 

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