抵当権とは?根抵当権との違いから抵当権付きの不動産まで徹底解説!

抵当権とは?根抵当権との違いから抵当権付きの不動産まで徹底解説!

 

融資取引や不動産取引の際に抵当権という用語がよく出てきますが、金融や不動産に精通している人でなければ、その意味や効力を正しく知りません。抵当権があるとどうなるかというテーマで様々な情報が拡散していますが、正しくないものも散見されます。今回は、金融と不動産のプロとして正しい情報をお届けする目的で、抵当権について解説します。

  抵当権とは?  

抵当権は、不動産を担保にする時に使う担保物権です。担保物権は、法的に当然発生する法定担保物権と当事者の合意によって成立する約定担保物権の2種類があり、抵当権は約定担保物権となります。

 

担保物権
法定担保物権 約定担保物権
合意・契約は必要なし 当事者間の合意によって成立
留置権・先取特権 抵当権・質権


住宅ローンを利用して自宅を購入する際、金融機関から購入する不動産に抵当権を設定することが求められます。住宅ローンは高額な資金を長期間にわたって融資をする商品であり、将来的に延滞や支払不能などの債務不履行状態となった場合の回収手段を確保する必要があるためです。

 

抵当権を設定すると、融資をしている債権は抵当権によって担保される「被担保債権」となります。債務不履行状態となった際に、金融機関は抵当権を実行して担保となっている不動産を競売にかけ、その売却代金を被担保債権に充当することとなります。

 

抵当権の主な特徴は下記3点です。

 

抵当権設定後も使用収益権限は所有者にある
所有者は抵当権設定後も不動産を自由に利用することができます。居住や売却だけでなく、第三者に賃貸中であれば賃料収入を得ることも可能です。このことを法律的には使用収益の権限があると言います。使用収益とは「物を直接利活用して利益・利便を得ること」を言い、抵当権設定後であっても不動産から得られる果実(利益)を受け取る権利を有します。
この点が、抵当権と同じ約定担保物権である質権と大きく異なります。質権は目的物を債権者に引き渡すことで効力が発生する担保物権であり、質入れ中は所有者が目的物を利用することはできません。

 

抵当権者は他の債権者よりも優先的に弁済を受けられる
抵当権者は、抵当権を設定している不動産を売却した場合、担保のない一般債権者よりも優先的に弁済を受けることができます。抵当権者とは、抵当権を設定している債権者のことであり、住宅ローンの場合には融資をしている金融機関のことを指します。担保のない一般債権者間では、売却代金をそれぞれの債権額に応じて按分した金額しか弁済を受けることができませんが、抵当権者は債権金額全額の弁済を優先的に受けられます。

 

抵当権の4つの法的性質
抵当権には「付従性」「随伴性」「不可分性」「物上代位性」という、4つの法的性質があります。

 

・付従性
抵当権は被担保債権を担保するための権利であるため、被担保債権が成立していなければ抵当権も成立しません。融資金を全額返済した場合には、抵当権の効力も消滅します。

 

・随伴性
被担保債権が他の債権者に移転された場合、抵当権も一緒に移転します。住宅ローンを延滞すると金融機関から債権回収会社(サービサー)に債権譲渡されますが、同時に抵当権もサービサーに移転することとなります。


・不可分性
被担保債権が全額弁済されるまでは、担保となっている不動産全体に対して抵当権の効力が及びます。融資金の一部を弁済しても、抵当権の一部が消滅することはありません。

 

・物上代位性
担保不動産が消滅して他の財産に変わった場合や担保不動産から得られる賃料などに対しても抵当権の効力は及びます。例えば、建物が火事で消滅した場合の火災保険金や債務不履行後の受取賃料については、所有者に支払われる前であれば抵当権者は差押えることができます。

  抵当権と根抵当権の違いとは?  

抵当権とよく似た性質を持つ根抵当権という担保権があります。
根抵当権は、借り入れの枠として極度額を設定し、極度額の範囲内であれば借り入れと返済を繰り返し行うことができる特徴があります。

一度きりの取引となる個人の住宅ローンの場合には抵当権が使われますが、法人の事業資金のように反復継続した取引となる場合には根抵当権を利用することが多くなります。主な理由は、再度の借り入れをする場合に登記の手間やコストが軽減されるためです。抵当権の場合は都度登記が必要になりますが、根抵当権の場合には極度額の範囲内であれば登記の必要がありません。したがって、一度完済した後に改めて借り入れをする場合、根抵当権の登記が残っていればそのまま利用することも可能です。

また、抵当権は被担保債権が1つであるのに対し、根抵当権は反復継続した取引が可能であるため、被担保債権が1つとは限りません。債権にも様々な種類があるため、根抵当権を設定する際に「銀行取引」「金銭消費貸借取引」「手形取引」などの被担保債権の範囲を定め、その取引を包括して被担保債権とすることとなっています。

根抵当権の効力については、抵当権と同様に使用収益権限や優先弁済が認められています。ただし、法的性質のうち「付従性」「随伴性」が根抵当権自体にはなく、債権を特定する元本確定によってその効力が生じることとなります。

  抵当権付き不動産は売却が困難?  

よく、抵当権付きの不動産は売却が困難であるとかリスクがあるという記事を目にします。

 

結論から言うと、抵当権の抹消ができない不動産の売却は困難になりますが、抵当権が設定されている不動産の売却は困難ではありません。

 

金融機関から借り入れした住宅ローンがまだ残っている不動産を売却する、というケースはよくあります。

通常の不動産取引においては、不動産を売却すると同時にその売却代金で住宅ローンを完済することになるため、問題なく売却することができます。売買決済日を金融機関に事前に伝え、完済金額を確認し、その日に合わせて抵当権の抹消書類を発行してもらえるように依頼することが一般的です。売買決済日当日に売買代金から完済金額を振込し、抵当権の抹消書類を受領することとなります。

 

ただし、前述のとおり抵当権の抹消ができない不動産の売却は非常に難しいものとなります。
売却する金額よりもローンの残債が大きい場合には、金融機関は担保抹消に応じられません。他人の住宅ローン債務が残ったままの不動産を購入する人はまずいないため、住宅ローンの残債に対して売買代金が不足している場合には、自己資金で不足分を充当しなければ売却は難しいでしょう。

  抵当権付きの不動産は相続できる?  

抵当権が設定されている不動産であっても相続は可能です。

 

相続する場合、プラスの財産(資産)だけでなくマイナスの財産(負債)も含めて相続することになります。抵当権付きの不動産の場合には、抵当権者である金融機関に連絡し、負債の有無を確認することがスタートです。

 

負債がなければ金融機関に抵当権の抹消書類の発行を依頼して抹消します。

 

負債があった場合には、相続人が金融機関への返済を引き継ぐことになります。ただし、金融機関からの借り入れが住宅ローンの場合には、団体信用生命保険に加入しているケースがほとんどです。その場合、被相続人である借主が死亡すると保険金で住宅ローンが完済されるため、相続人は抵当権の付いていない状態で不動産を相続することとなります。

 

相続には、普通の相続である単純承認の他に、限定承認、相続放棄の3つの方法があります。相続放棄は資産と負債の全てを放棄する時に使います。限定承認は資産の範囲に限定して負債を相続する時に使われ、負債の方が多かった場合でも残りの金額を弁済する必要はありません。

 

抵当権付きの不動産を相続する際に注意したいのが、抵当権の残債務が不動産価値よりも多い場合です。相続放棄をすると、預金や有価証券などの他の財産も放棄することになってしまいます。預金等の財産が多額にあるのであれば、単純承認や限定承認した方が結果的に受け取れる資産が残ることになります。限定承認はあまり知られていない方法ですが、ご自身の財産が侵害されるリスクはなく、あくまで相続財産の範囲でプラスになった場合に相続できる仕組みです。負債が不明瞭な場合に活用することができますので、知っておくと良いでしょう。

 

また、相続税を計算する際は、全体の資産から残債等の負債を引いた金額で計算されます。抵当権の設定金額ではなく、残債が負債となることを覚えておいてください。

  抵当権の抹消について  

抵当権の抹消と言われても、具体的にどうすればいいのかは一般的に知られていません。不動産を担保にした借り入れに馴染みがない方にとっては、住宅ローンの抵当権以外で関わることがないからです。初めての方でも安心して手続きができるよう、3つのポイントに絞って解説します。

 

抵当権の抹消とは何か?
抵当権は、被担保債権となる債務を完済すると抹消することができます。借入先の金融機関が抹消してくれるものではなく、ご自身で抹消手続きをすることになります。

 

債務を完済した時に、金融機関に抵当権の抹消書類の発行依頼をします。書類受領後の方法は2つ、自分自身で管轄する法務局に登記申請するか、司法書士に抹消登記を委任するかです。

 

抵当権の抹消の登記申請は、全く難しい手続きではありません。ご自身で法務局に出向き、登記官に相談すれば丁寧に説明してくれます。ご自身で登記申請すれば、費用も実費分で済むのでお勧めです。


登記申請書については、下記を参照下さい。
参考:法務局「抵当権抹消登記申請書

 

抵当権を抹消しない場合に考えられるリスクとは?
抵当権の抹消をしなくても、債務を完済していれば実害はありませんが、第三者から見た場合、債務が残っているのか、完済しているのかを判別することが出来ません。新たに建築資金として住宅ローンを利用する場合や不動産を売却する場合には、抵当権を抹消する必要があります。時間に余裕があれば問題にはなりませんが、期限が決まっている場合には手続きが間に合わないというリスクが考えられます。

 

金融機関に対して抹消書類の交付を依頼しても、手元に到着するまでには時間がかかります。抹消書類を紛失し、再発行の依頼をする場合には手続きも必要となる上、再発行が不可能な書類も存在します。また、金融機関が合併により消滅している場合には、元々の金融機関の分までの書類が必要になるため、通常よりも大幅に時間がかかることとなります。

 

抵当権を抹消しておかないと、実際に売却や贈与などの手続きを取ろうとした際に制約がかかるため、抹消書類が交付された後はなるべく早めに手続きをすることをお勧めします。

 

抵当権の抹消をする際の手続きと費用について
まず、金融機関へ連絡して完済の意思表示をし、指示された手続きを行います。定められた期日に弁済を行い、抹消書類を受領します。金融機関から受領する書類は「解除証書(放棄証書・弁済証書)」「抹消登記委任状」「登記済証もしくは登記識別情報通知」「金融機関の資格証明書もしくは会社法人番号」の4点です。

 

その後、管轄している法務局へ出向き、抹消登記の申請を行います。登記申請書に必要な情報を入力し、申請書と金融機関から受領した書類4点を提出する事で手続きは完了します。

 

抹消登記に必要な費用は登録免許税のみであり、不動産1筆に付き1,000円かかります。例えば2筆の土地上に建物が1筆の場合には3,000円の登録免許税がかかります。抹消の手続きは司法書士へ委任する事もできますが、登録免許税に加え司法書士の報酬が10,000円~20,000円程度かかるのが一般的です。
管轄する法務局は下記を参照ください。
参考:法務局「管轄のご案内

  まとめ  

抵当権は住宅ローンを借りる時に良く利用されますが、一般の方にとってはどのようなものかあまり知られていませんし、ネガティブなイメージを持って情報が拡散されることも少なくありません。金融機関は債権を保全するために抵当権を設定しますが、本コラムで普通に返済をしていれば生活に何ら支障をきたすものではないことはご理解いただけたかと思います。抵当権の抹消手続きをしていなかったり忘れてしまっている方は意外と多いので、気がついた時には早めに手続きをするようにしましょう。

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